区分所有3度目の法改正に向けて⑩

 先回は5月までに開催された区分所有法制研での本丸御殿について若干ながら紹介したが6月には、それに加え、民法(物権法)における所有者不明土地法と連携する所有者不明専有部分管理制度の2度目の議論、ウェブ会議システムの活用について議論された模様だ。筆者としては、「空家」の実態が各自治体調査やマンション総合調査に基づく数値が活用されているように受け止めているが、本来、空家増加に苦しむマンションが、今あげた調査の網にかかるものだとは到底思えないでいる。

 以前ある会議の席上、「管理不全マンションにつき管理組合ネットワークの協力を得て調査をしたい」といった声が上がったとき、思わず吹き出してしまった。3条団体、理事会が生きているところは確かに、空家の増加傾向を綿密に把握はしてはいるのだろうが、本来の空家の実態とはかけ離れている筈だ。

 ところで、これも6月末の話であるが、多摩市が1年半ぶりにマンション管理セミナーを永山公民館ベルブホールで開催した。ようやく開催にこぎつけたものの、コロナ蔓延の兆しを受け、制限下での限定開催となった。したがって参加者は50名を少し超える程度とやや少なめ。とはいえノンフィクション作家の山岡淳一郎氏による「コロナや戦争で加速する脱炭素ライフ」と、ブリリア多摩(旧多摩N T諏訪2丁目住宅団地)の2代目理事長菊地直之氏による「新旧住民、世代間の融合を実現」と題した講演は、実に奥深い実のある議論であった。

セミナーで語るノンフィクション作家・山岡淳一郎氏

 この味わい深き講演を是非紹介したいのは山々だが、当シリーズとの関連で山岡氏の講演の一部をデフォルメして紹介しておこう(セミナーは多摩市のインターネットでも視聴可)。
すでに彼の著書「生きのびるマンション」(岩波新書・2019)でもお馴染みなのだが、講演を聴いているとどうも、脱炭素ライフの観点からもマンション外壁の外断熱工法が新風を巻き起こしているらしい(とはいえ普及率はまだまだ)。二重サッシと外断熱によって建物の熱効率が格段にアップするというのだ。

 国交省は既に「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」、「長期修繕計画作成ガイドライン」等でも取り上げ、補助の対象になっている。筆者はというと「史上最大のミステーク」(T B Sブリタニカ・1999)で知り、その後の展開に目を向けていた。当該セミナーでも取り上げられ、多摩市は既に同工法によるマンションの外壁改修を補助の対象としつつ(約3年前)、その普及にも前向きだ。

 わが国においては、新しい工法であるためその実態の把握は、現在進行形の中にあるのだろうが、ヨーロッパと日本の気候・災害等の違いを超え、さらに設置・運転コストの抑制面が如実に明らかとなり十分に耐えられるものであれば、新工法の導入が相当に進むのではなかろうか。すると屋上・外壁改修といった、マンションの大規模修繕周期を計る大きな柱は今、大きく変わりつつある。筆者が駆け出しの頃は、修繕積立金がない時期を経て漸く修繕周期10年ということが、声高に叫ばれていた時代だった。これが10年から20年に工期間隔が拡大すれば、マンション管理そのもののサイクルも当然のことながら変化せざるを得ない。マンションの維持・管理における底流部分で物理的変化が進行し始めた。もちろん工期間隔が拡大すれば、細かな業務も当然に増えるのだろうが(つづく)。

明治学院大学兼任講師・本紙客員編集委員 竹田智志

集合住宅管理新聞「アメニティ」2022年8月号掲載