区分所有3度目の法改正に向けて④

 区分所有法制研の会議も昨年暮れまでに9回を数えるに至った。当初、マンション建替え、復旧制度を中心に見直しをかけようという動きかと短絡的な射程を思い浮かべたのだが、これではどうも的外れである。実は意外と大きい射程が見え隠れする。

 ご存知のように、民法は、動産であれ不動産であれ共同で所有する場合の共有関係では、団体の意思決定メカニズムを用意している。そこには変更行為であれば「全員一致」、管理行為であれば「過半数」、保存行為は「単独」(法251、252条)で行えるとする。

 区分所有は、83年法での改正を受け、建替え・復旧、共用部分の変更、共用部分の管理、義務違反者への措置等で、過半数議決、組合員、議決権の四分の三以上、同五分の四以上という階段(ハードル)式議決を設定した。

 母法であるヨーロッパの国々には、このようなハードルはない。民法と同じく全員一致か過半数である。とはいえ昨今は、これを支えている管理者制度が大揺れしているらしく理事会の設置が望まれているのだそうだ。

 集合住宅とはいえ、100年、200年と住み続けられる、あの重厚な造りのアパートメントでは、保存行為こそ、一定程度発生するのだろうが、ベテランの管理者の調整によって済んでいたのだろう。これまでにあまり問題とはならなかった筈だ。

 ところがなぜ今、制度が揺らぐほど問題化しているのだろう。恐らくは、共用部分の変更が課題なのではあるまいか。復旧制度は兎も角として、建替え制度など当然ない。にもかかわらず騒然としているのはなぜか。実に興味深い。

 さて、わが国の区分所有に話を戻そう。これまでに俎上に上ってきた課題点(メニュー)の整理は後にして、今回の改正の主眼は何だろう。思うに、階段(ハードル)の緩和措置ではあるまいか。「五分の四」、「四分の三」、「過半数」を「四分の三」、「三分の二」、「過半数」に改める。コンセンサスの緩和を前提に新たなメニューも含めて振り分けることこそ真の狙いではないか。

 これまでの報告では、復旧・建替えに関する緩和措置について、ディベ、コンサル、自治体等関係団体が概ね好意的に捉えられていると述べた。が筆者としては、この緩和によってマンション建替えに特段の変化が起こり得るとは、とても予測できないとした。

 さて、区分所有法上のコンセンサスの緩和が、こと成就したと仮定したとき、一体どの様な動きを示して来るのだろう。

 区分所有といった一法律のコンセンサスの緩和を、大きく規制全体の緩和と見ることは当然できないけれども、結果如何によっては、これまで延々と主張されてきたマンション建替えにおける規制の緩和路線につき、結論の一端を示すことに繋がると予測はできそうだ。

 あるマンションが老朽化した、被災したでは、客観的な要件が異なる。緊急事態時の復旧のコンセンサスと老朽化を前提とした建替えのコンセンサスは、そもそも異なっているに違いない。被災マンションの手当ては早く、老朽化マンションのそれには厚く、新メニューの振分けも含めて、区分所有法の変化を見つめながら、把握していかなければならない。(つづく)

2016年4月14日発生した熊本地震で被災したマンション(写真提供:熊管連)

明治学院大学法学部兼任講師・本紙客員編集員 竹田 智志

集合住宅管理新聞「アメニティ」2022年2月号掲載