区分所有3度目の法改正に向けて⑨

 5月までに開催された区分所有法制研で、ほぼ改正されるべくテーマが出揃ってきたような感がある。その第一はやはり、「議決要件の見直し」であろう。五分の4、四分の3、過半数議決が、四分の3、三分の2、過半数へと一斉に緩和の方向で進展するのではなかろうか。  

 さらに第二点目は、「多数決要件の見直し」だろう。これは区分所有者の団体における集会での決議で、これまではほぼ組合員の総数を母数としていたわけだが、集会への参加者を母数とする場合、または所在等不明の区分所有者を母数から除外する、賛否不明の区分所有者を母数から除外するなど議決要件の手前で篩いを設ける仕組みだ。

 これらを、従来の議決の中で当てはめを行い一挙に緩和路線へ舵をきるのではないかと考える。そして団体の意思決定メカニズムを整理整頓することで、マンション管理の円滑性・敏捷性を担保する狙いがあるのではなかろうか。先回報告したマンション管理適正化法の管理組合を焦点とした充実ぶり、自治体を巻き込んでの新制度の活用は確かに、インセンティブ効果も大いに期待できそうで、これまでに見ないマンション施策だろうと思われる。するとどうも3度目の改正法の朧げな姿がようやく見えてきたような気もしてくるのだが、筆者としては、いささかの懸念もないとは言えない。

 30年ほど前に行った首都圏の自治体調査で、管理組合への助成制度を追いかけたことがある。そこでまず感じたことは、管理組合に対する各自治体の対応が千差万別であるということだった。もちろん3条団体の規模にしても、たった数戸から1600戸を上回るものまであったし、各自治体の総世帯数に占めるマンションの数の違い等を踏まえれば、バラバラな状況でしかも制度に対する温度差が生じてくるのもわかるのだが、さてどこまで足並みが揃うだろうか。国交省の政策が最寄りの自治体にまで浸透するのには多少の時間も必要だろう。

 もう一つの懸念は、管理不全のマンションにおける「第三者管理」の普及に伴って、この新たな制度を悪用されはしないかである。役員のなり手不足が叫ばれつつも3条団体を支える人たちは、「組合の理事、理事長になりたい、なりたい」という人物に対し、一定の注意を払ってきた。暗黙の了解事項だがこれが一面で効かない今、罰則が整っていない管理者の独断専横に近い状況がまかり通ってしまう危険を孕んではいないだろうか。とっても不安な部分である。

 ところで、第14回を数える法制研では、思いも寄らぬところから大きな課題が登場してきた。マンションの共用部分等に生じた損害賠償請求権等の行使について、管理者は区分所有法第18条の規定により請求可である。さらに第26条では、管理者は規約又は集会の決議により区分所有者のために原告又は被告となることができるものとするとある。これが比較法的には、管理者に帰属する損害賠償請求権が元区分所有者をも含めるのか。解釈論的には、管理者の権限の及ぶ範囲、原告適格とが問題として再燃しそうな気配だ(つづく)。

明治学院大学法学部兼任講師・本紙客員編集委員 竹田 智志

(集合住宅管理新聞「アメニティ」2022年7月号掲載)