
マンションの耐震化、実現へのプロセスと課題 3
3 耐震補強工法について
耐震補強工事について、補強方法に対して不安を抱くことが少なくありません。「補強工事=見た目が悪い」「住民の反対が多い」といったイメージを持つ方もいらっしゃいます。確かに、学校や公共施設で採用される「ブレース補強工法」などは、外観に大きな影響を与えるため、マンションでは反対意見が出ることも想像出来ます。
しかし、現在ではさまざまな補強方法が存在し、見た目への影響が少ないものが多く採用されています。また、ほとんどの工法では、住民の仮移転が不要で、住みながら施工を進められるため、合意形成は、想像しているよりも難しくないケースが多いと思います。
◆軽微な補強で終わるケースもあります
軽微な補強で済む場合もあります。例えば、耐震スリット補強工法という方法があります。この工法では、柱に「耐震スリット」を追加することで、柱の変形性能を発揮させることができます。実際、新耐震基準の建物には最初からこのスリットが入っており、旧耐震基準の建物には後から施工することができます。この方法は、見た目の変化をほとんど伴わず、費用負担が少なく、居住しながら施工が可能なため、住民の合意を得るのも比較的容易です。

耐震スリット工事施工中

耐震スリット補強工事完了
◆施工時の居住者負担も考慮した補強方法
耐震補強においては、補強方法だけでなく、工事の際の居住者への負担も重要なポイントです。現在の工法は、ほとんどの場合、仮移転をしなくても施工が進められるため、住民の生活に与える影響が少なく、合意形成が取りやすくなっています。
◆資金面での課題と最初のステップ
耐震補強工事の実施には、資金面での課題がつきものです。中には、資金が足りず、耐震補強を諦めるマンションもあります。しかし、耐震性を理想的に満たすことが最終目標であるべきですが、最初から全てをすることが難しい場合もあります。そんな時は、少しでも耐震性を向上させることを最初の目標として設定し、段階的に改善を図ることが重要です。
◆ピロティ柱の補強
マンションの1階部分に駐車場や店舗が設けられている場合、ピロティ構造の建物が多いです。ピロティ柱は、車の出入りを考慮して設置されていますが、これが弱点となることがあります。熊本地震では、1階に駐車場があったマンションで、ピロティ柱の座屈により倒壊した事例がありました。このような危険性の高い部分は優先的に補強する必要があります。ピロティ柱の補強を行うことで、マンション全体の耐震性が格段に向上します。

熊本地震での被害事例
◆まとめ
耐震補強工事は、外観への影響を最小限に抑えながら、安全性を確保するための重要な取り組みです。少しでも早い段階で、住民全体で耐震性を向上させるための方法を検討し、合意形成を進めることが大切です。
資金面の課題を乗り越えながら、最初の一歩を踏み出すことが、将来の命を守るための大きなステップとなります。
耐震化のメリット
耐震化の最大のメリットは「命を守る」ことですが、それ以外にも各種税制の優遇措置や、地震保険料の割引といった経済的な恩恵があります。
また、多くの自治体では助成制度があり、費用面の負担を軽減できます。さらに、大規模修繕工事と同時に行うことで、足場などの共通工事費を削減できる場合もあります。
マンションの活性化へ
耐震化されたマンションは、住宅ローンが組みやすくなるため、若年層の購入が進み、住民構成が若返ります。新しい住民が管理組合に加わることで、活発で持続可能なマンション運営が実現します。耐震化は、マンションの「安全」を守るだけでなく、「未来」を育てる第一歩となるのです。
3回にわたり「マンションの耐震化」についてお話させていただきました。皆様のマンション管理や今後の耐震化の取り組みの一助となれば幸いです。(おわり)
株式会社耐震設計 代表取締役 岡田和広
(2025年6月号掲載)