
マンション法の改正 1 改正の背景・概要と規約改正対応(2025年7月号掲載)
■改正の背景
令和7年5月23日、改正マンション法が成立した。いわゆる「2つの老い」に直面するマンションにおいて管理・再生いずれの面でも合意形成が難しくなっている(また将来的によりそうなっていく)との問題意識から、管理の円滑化(「適正化」のみでなく「円滑化」もである)、再生の円滑化等を図るための改正である。
今回の改正は、区分所有法のみでなく、マンション管理適正化法、マンション建替え等円滑化法(改正によりマンション再生法)及び被災マンション法なども含む、マンション法全体の大改正である。
■改正の概要
表のとおり、改正項目は多岐にわたる。管理の円滑化や再生の円滑化の観点から制度が具体化されるとともに、管理業者が管理者になる場合に関する規制や新築時からの管理計画認定などが管理の適正化の観点からも新制度が設けられている。
〔改正マンション法の新制度の概要〕
改正区分所有法 |
マンションの管理の円滑化 |
出席者多数決、所在等不明区分所有者を決議の分母から除外、所有者不明専有部分管理制度、管理不全専有部分・共用部分管理制度、共用部分の変更決議・復旧決議の緩和、国外区分所有者による国内管理人の選任など |
マンションの再生の円滑化 |
建替え決議の要件緩和、建物敷地売却・建物取壊し・一棟リノベーション(建物の更新)などの決議制度、建替え決議等がされた場合の専有部分の賃貸借の終了、団地一括建替え決議の要件緩和、団地内建物・敷地の一括売却決議など |
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改正マンション管理適正化法 |
行政の権限強化(修繕勧告、管理組合に対する報告徴求権、立入調査権限)、所有者不明専有部分管理人などの行政による選任申立て、マンション管理適正化支援法人の登録制度、管理業者管理者の重要事項説明・利益相反取引の場合の事前説明、新築時からの管理計画認定など |
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改正マンション再生法 |
新たな再生手法に対応した事業法の整備、行政による建替え・取壊し等の勧告など |
■改正の背景の深堀り
土地の所有者不明問題は我が国の現代的な大問題となっているが、マンション法の改正も「所有者不明土地問題」への対応の一つに位置付けられている(内閣官房「所有者不明土地等対策の推進のための関係閣僚会議」参照)。すなわち、現在、所有者不明土地問題対策の法整備には、狭義の所有者不明の問題への対応のみならず、所有者特定のコストや相続等により所有者多数(共有)となった場合の合意形成のコストの問題への対応、管理不全不動産の問題への対応なども広く含まれている。また土地のみでなく、空き家などを含め建物の適正管理の問題も含めて制度改革が行われている。このような中、マンション法改正における所有者不明専有部分管理人や管理不全専有部分・共用部分管理人の制度、管理・再生の決議要件の緩和によるその円滑化は、広い意味での所有者不明土地問題として政策的に位置づけられている。建物の適正な利用は土地の適正な利用と密接なかかわりを持つことから、土地基本法に基づく土地の適正管理の責務はその土地上の建物の適正管理の責務にも結びつくということであろう。もっとも、土地基本方針(令和6年6月11日閣議決定)では、「土地の有効利用を図るうえでの障害となり得る老朽化マンション等老朽化区分所有建物対策」として建替え要件緩和等の改正マンション法の施策が位置づけられており、マンションが居住の場であることが置き去りにされないよう、マンション法制の政策上の位置づけを今後検証していく必要があるだろう。
■施行日と規約改正対応
改正マンション法は、一部の例外を除き、令和8年4月1日に施行される。規約改正や共用部分の変更などが出席者多数決により決議可能となるが、各管理組合の現行の規約は、総区分所有者と総議決権の各4分の3以上により決する旨規定されている。この現行の規約の定めは、法施行日に無効となる(改正マンション法附則2条3項)。そこで、各管理組合では、改正法施行前に令和8年4月1日より発効する規約改正を施行日前の総会において決議しておくか(この場合は現行法の決議要件で改正する)、法施行後速やかに改正法の決議要件(出席者多数決)により規約改正を行うかのいずれかの措置をとった方がよいだろう。
次回以降5回にわたって、改正マンション法のポイントを解説する。(つづく)
横浜マリン法律事務所代表弁護士/横浜市立大学大学院客員准教授 佐藤元
2025年7月号掲載