法律Q&A 放置居室の悪臭と棟総会の規約がない団地②(2025年7月号) 

 本紙第510号(2025年3月5日発行)にて、「放置居室の悪臭と棟総会の規約がない団地」について回答させて頂きました。今回は、その続きとなります。

 前回は、標準管理規約(団地型)77条に相当する規約に基づいて、残置物の撤去等を請求する訴訟を区分所有者の甲さん相手に提起して勝訴した上で、代替執行(民事執行法第171条)により、執行官が放置居室所有者の甲さんの費用で残置物を撤去等することができる旨の命令を裁判所から取得する手続についてご回答しました。今回は、代替執行の実施費用についてまずご説明し、最終的にどのように解決すべきかをご回答いたします。

 代替執行の実施費用を捻出するために、費用前払決定の申立てという手続があります(民事執行法171条4項)。この申立てにより、代替執行の実施に先立って、甲さんにその費用の支払を命じる決定を得ることができます。この決定により、甲さんの財産を差し押さえ、その財産を換価して実施費用を得ることができます。例えば、甲さん名義の銀行口座が判明していれば、その口座を差し押さえて実施費用を賄うことができます。しかし、口座が残高不足等の場合には、実施費用を得ることはできません。そのときは、実施費用を管理組合が立替えた上で代替執行を行わざるを得ません。

 また、費用前払決定による差し押さえを甲さんの居室に対して行い、これを競売にかけることも選択肢の一つです。競売手続により甲さんの居室が競落されれば、甲さんはその居室の所有権を失い、競落者が新しい区分所有者となります。ただし、例えばその居室に抵当権が付いていて(住宅ローンの担保になっているなど)、その被担保債権額(住宅ローンの残額など)等がその居室の価額を上回る場合は、その抵当権者の同意等がなければ、競売手続は取り消されてしまいます(無剰余取消し、民事執行法63条2項)。

 そこで、最終的な手段として、区分所有法第59条を用いて、甲さんの居室を競売にかけることになります。この59条競売には、無剰余取消しの適用はありません。他方で、「区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるとき」と要件が厳しくなっています。前段の要件は、甲さんのケースでも満たすと思われます。後段の要件、すなわち59条競売以外には解決する方法がないことについては、判例を見る限り、裁判所によってその解釈がまちまちではありますが、少なくとも撤去等の判決取得まで、可能であれば、代替執行及び費用前払決定の申立て並びに一定の財産調査まで行い、代替執行が困難であることを明らかにした上で、59条競売の申立てをすべきです。

 また、59条競売は、団地総会の決議ではこれを申し立てることができません。甲さんの居室がある棟の棟総会の特別決議が必要です。ご質問の団地には、棟総会に関する規定(標準管理規約(団地型)第68条以下)が規約に一切ないとのことですが、それでも棟総会の開催は可能です。区分所有法34条以下の規定に基づき、「管理者」がいないことを前提として、集会の召集(同法34条5項)及び議長(同法41条)などに則り、団地総会に関する規約の規定や運用を参考にしながら棟総会を開催して、59条競売の決議をして下さい。

 甲さんの居室は、そのまま住める状態でないことは明らかですから、低額での競落になることが予想されます。しかし、競落されれば、競落者が居室の原状回復をすることに期待が持てますから、問題は解決するでしょう。

法律相談会専門相談員 弁護士 内藤 太郎

(2025年7月号掲載)