マンション法の改正6 ―管理業者管理者への規制(2025年12月号掲載)
■マンション管理適正化法の改正
令和7年マンション法の改正は、区分所有法のみでなく、被災区分所有法、マンション建替え等円滑化法(改正後「マンション再生等円滑化法」に名称変更)及びマンション管理適正化法(以下「適正化法」)などの改正を含むマンション法制全体の大改正である。適正化法の改正では、都道府県知事・市長によるマンションの管理者等に対する修繕勧告、マンション管理適正化支援法人の都道府県・市への登録制度、新築時からの管理計画認定制度などが導入される。
■管理業者管理者への規制導入の背景
適正化法の改正により管理業者管理者方式(管理業者が管理組合の「管理者」に就任し理事会を設置しない管理方式)への規制も導入される。従前はリゾート・投資用マンションで多かったが、近時は、役員のなり手不足等を背景に居住用マンションにおいても広がっており、また、役員としての負担がないため新築時からの採用例も増えている。
管理業者管理者方式は、①自らに大規模修繕工事等を発注しうる利益相反、②通帳と印鑑・カードを管理業者が双方保管するリスク、③理事会方式へ戻す際に規約変更が必要となる点、④管理業者辞任時に次の管理者が見つからない可能性などの問題がある。導入にあたっては、こうした特性を管理組合が正確に理解する必要がある。
そのため、令和7年マンション法改正に先立って、国土交通省は、「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」という)を策定し、管理業者管理者方式の留意事項を取りまとめていたところであるが、今般の改正においてガイドラインの内容の一部を法規制化した。また、適正化法における管理業者管理者規制に関連する適正化法施行規則の改正も行われ、法令解釈に関する通達も公表されている(国不動第141号)。
■具体的規制内容
重要事項説明(適正化法72条関係)
管理者事務を内容とする管理者受託契約を締結しようとするときは、あらかじめ、重要事項説明会を開催し、区分所有者に対して、管理業務主任者が管理者受託契約の重要事項(管理業者の基本情報や利益相反取引に当たるグループ会社など)を説明しなければならない。ただし、同一内容での更新の場合には、区分所有者等全員に対する重要事項説明書の交付で足りる。通達では、重要事項説明会は管理者受託契約の締結について決議する総会とは別日に行うことが望ましいとされている。
契約書面の交付(適正化法73条関係)
管理業者が、管理事務の委託契約を締結し、またはそれを締結しようとする管理組合との間で、管理者受託契約を締結したときは、当該マンションの区分所有者等全員に対し、遅滞なく、管理者受託契約書面を交付しなければならない。
管理組合の印鑑等の保管(適正化法76条関係)
管理業者管理者方式においても、管理業者は管理組合の修繕積立金等の保管口座又は収納・保管口座の印鑑等を保管できない。しかし、管理業者管理者方式においては、①管理業者及びそのグループ会社以外に印鑑等の保管を承諾する者がいない、②適切な管理体制、③保管口座又は収納・保管口座の最大預け入れ額以上についての保証契約の締結、④管理組合口座であることが明らかな名義、⑤保管についての説明と集会決議(令和8年4月1日から保管する場合はその前日までに決議が必要)を満たす場合には、例外的に保管することができる。これらを満たすことは困難な場合が多いと考えられる。
利益相反取引の規制(適正化法77条の2関係)
管理業者管理者が、自社又はグループ会社と契約締結する場合には、区分所有者に対し、あらかじめ取引に関する重要事実(取引の相手方との関係、取引の内容・金額、取引を行う理由、相見積もりの内容など)を説明会において説明しなければならない。グループ会社には、子会社、親会社、関連会社等が含まれる。
■管理業者管理者の今後
上記法規制に加えて、国土交通省は、管理業者管理者導入の場合の管理規約の規定例や標準管理者事務委託契約書を公表する。そこでは、管理業者管理者方式における監事設置など監督機関を持たせる例も示されるが、これは法規制ではない。
管理業者管理者方式を採用したとしても、区分所有者が最終的な管理の責任を負っていることを自覚し、適正な管理・監督が求められる。(おわり)
横浜マリン法律事務所代表弁護士/横浜市立大学大学院客員准教授 佐藤元
集合住宅管理新聞「アメニティ」2025年12月号掲載