法律Q&A 議長資格のない者によりなされた決議は有効か?(2025年11月号掲載)

 

 当管理組合の管理規約は、総会の議長は、総会において組合員の中から選出すると規定しています。

 先日の総会では、組合員ではない組合員の同居の親族が、議長として総会にて選出され、議案が可決されました。

 その際、議長に委任された議決権も、その議長が議決権行使をしています。この可決決議は有効なのでしょうか。

 

 議長の資格のない者の議事進行によりなされた決議ですから、この決議が規約に反することは明らかです。しかし、規約に反するからといって、直ちに決議を無効とすることは、管理組合の運営に多大なる影響を与えます。

 そこで一般に、重大な違反がある場合に限り、決議が無効になると考えられています。そこで、今回の規約違反が、重大な違反となるかを検討することになります。

 類似の事案で、名古屋地方裁判所令和6年3月27日判決(判例秘書登載)は、「議長を組合員に限定する管理規約の規定は、第三者による総会の攪乱等を防止し、組合員の利益を保護する趣旨で設けられたものと考えられるところ、(議長として選出されたA)は、本件住宅の一室に居住し、区分所有者と親子関係にある者で、区分所有者からの委任を受けて代理人として本件総会に出席し、・・・本件総会について、他の組合員とほぼ同等の利害関係を有する者であったことが認められる。また、・・・議場の多数意見により、Aが議長として選出されているのであり、Aの議事進行に格別不適切な点があったとは認められず、本件総会の出席者は、それぞれの立場で本件各決議に参加したと認められることなども踏まえると、上記規約違反・・・は、本件各決議の効力に影響を与えるような重大なものであったとは認められない。」とし、議長に委任された議決権を代理行使したことについても、「委任状を提出する者の意思としては、議場において議長として選出された者に議決権の行使を一任する趣旨であったと考えるのが自然かつ合理的というべきである。」とし、議決権の代理行使を有効として、決議を有効としました。

 これに対して、控訴審の名古屋高等裁判所令和6年11月8日判決(判例秘書登載)は、本件の規約違反により直ちに決議が無効にはならないとして原審と同様の判断をしつつ、「管理組合における集会は、区分所有者の団体としての最高の意思決定機関であるから、組合員ではないAが、・・・他の組合員からの委任状により議長に委任された議決権を行使することは、団体としての意思決定を歪めることになりかねず、著しく不公正であるといわざるを得ない。・・・管理規約には、総会の議長は組合員の中から選任する旨が規定されている上、本件総会当日に出席せず事前に議長への委任状を提出した組合員は、組合員以外の者が議長になることを知らずに委任状を提出しているのであるから、その委任状をもって組合員ではないAに議決権を行使する権限が与えられたと認めることはできない。」として、委任状による議決権の代理行使を無効としました。その結果、一部の決議を無効としました。

 控訴審は、資格なき議長が管理組合の意思決定に直接関与することを重大な規約違反と判断したといえます。ご質問の事案でも、委任状による議決権の代理行使は無効と考え、決議の有効性を判断すべきです。

法律相談会専門相談員 弁護士 内藤 太郎

集合住宅管理新聞「アメニティ」2025年11月号掲載