マンション法の改正 5 団地関係の改正(2025年11月号掲載)
■団地内建物の一括建替え決議の要件緩和
団地内建物の一括建替え決議の理解のためケースを用いて説明する。
【ケース】A団地は、5棟(1棟あたり10戸、1住戸1議決権)、全50戸のマンション型団地である(土地の持分は全戸均等)。団地内建物の全てについて給排水管からの多数箇所における漏水が発生している。同団地では、団地内建物の一括建替え決議が行われ、39戸の区分所有者、かつ、土地の共有持分の4分の3以上の者が賛成した。各棟の賛否の状況としては、うち2棟は9名、2棟は8名の区分所有者が賛成したが、1棟については5名が賛成し、3名が反対し、2名は棄権という状況であった。団地内建物の一括建替え決議は成立するか。

前提として、現行区分所有法における団地内建物の一括建替え決議について整理する(【図】も併せて参照)。団地内建物の一括建替え決議は、すべての団地について実施できるわけではなく、①団地内にある数棟の建物の全部が区分所有建物であること、②①の建物の敷地が当該団地内建物の区分所有者の共有に属していること、③団地管理組合において、団地内にある区分所有建物の全部の管理又は使用に関する規約が定められていること、の三つの要件を満たす場合にのみ実施できる(このような団地関係を講学上「特別団地関係」という)。
このような特別団地関係において、現行区分所有法は、団地全体の決議要件(全体要件)として、総区分所有者及び総議決権の各5分の4以上の賛成を必要としている。また、全体要件に加えて、各棟の決議要件(各棟要件)があり、各棟の総区分所有者及び総議決権の各3分の2以上の賛成を必要としています。なお、議決権のカウントは、全体要件においては、土地の持分を基準とし、各棟要件においては当該棟の共用部分の持分割合(規約で別段の定めをしている場合にはそれによる。例えば1住戸1議決権など)を基準とする(現行区分所有法70条1項、2項)。
これに対して、改正区分所有法では、全体要件については原則を維持しつつ、団地内建物の全てについて決議要件を緩和する5つの事由(客観的な緩和事由)のうちいずれかが認められる場合には、総区分所有者及び総議決権の各4分の3以上の賛成により全体要件が充足されることになる(改正区分所有法70条1項)。客観的な緩和事由は、単棟型のマンションの場合と同様である(同条2項)(緩和事由については前号参照)。
各棟要件については積極的に賛成を数えるのではなく、区分所有者及び議決権の各3分の1を超える「反対」がない場合には要件を満たすとのルールに変更される。この結果、現行区分所有法では賛否不明者を反対としてカウントしていたところが、改正区分所有法では賛否不明者を反対にはカウントしないことになる(同法70条1項ただし書)。実質的に各棟要件は緩和されると評価できる。
改正区分所有法を【ケース】にあてはめると次のようになり、団地内建物の一括建替え決議が成立する。

■その他の団地関係規定の改正
改正区分所有法ではこれまで非常に読みづらかった団地の読み替え規定に読み替え表が導入され現行区分所有法よりも条文がやや読みやすくなっている(改正区分所有法66条)。また、団地内建物の建替え承認決議については、出席者多数決が導入されており、団地管理組合の集会において出席区分所有者及び出席議決権の各4分の3以上の賛成(定足数あり)により建替え承認決議が成立するとされた(同法69条)。さらに、団地内建物の一括建替え決議と同様の要件で、団地内建物敷地売却決議ができることになった(同法71条)。(つづく)
横浜マリン法律事務所代表弁護士/横浜市立大学院客員准教授 佐藤 元
集合住宅管理新聞「アメニティ」2025年11月号掲載