マンション法の改正 4 区分所有建物の再生の円滑化(2025年10月号掲載)

■区分所有建物の再生の円滑化の背景

 区分所有建物の建替えの制度が1983年の区分所有法改正によって導入され40年以上経過しているが、2025年3月31日時点までで建替えが実現した件数は323件(国土交通省調べ)という中で、マンションの再生が円滑に進んでいるとはいいがたいと指摘されており、区分所有建物の再生の円滑化の方策として、建替え要件の緩和や新たな再生手法の導入などの改正がされた。

■建替え要件の緩和

 新区分所有法でも、原則的な決議要件は変わらず、総区分所有者及び総議決権の各5分の4以上の賛成が必要であるが(改正区分所有法62条1項。ただし除外決定を受けた者は決議の分母から除かれる)、例外的に、客観的な緩和事由のいずれかに該当する場合には、各4分の3以上の賛成で成立する(同条2項)。客観的な緩和事由は、①耐震性不足(Is値が0・6未満のもの)、②火災に対する安全性の不足(2方向避難経路がないなど)、③外壁等の剥落により周辺に危害を及ぼすおそれ、④給排水管の腐食等により著しく衛生上有害となるおそれ及び⑤バリアフリー基準への不適合(エレベーター不設置など)の5つである。

■専有部分の賃貸借の終了

 現行区分所有法においては、建替え決譲は専有部分の賃貸借には何らの影響を及ぼさない。占有者である借家人は区分所有者の団体の構成員ではないからである。しかし、建替え決議後も借家人が占有を続けることになれば建替えが円滑に進まない。特に実務者からの要望もあり、改正区分所有法では、建替え決議成立後、専有部分の賃貸借の終了請求の制度が導入された(改正区分所有法64条の2)。賃貸人である区分所有者に加え、建替え賛成者・参加者等も終了請求ができる。終了請求の意思表示到達後6カ月で賃貸借は終了するが、借家人は補償金の請求をすることができ、その支払いを受けるまで明渡しを拒める。補償金の額は公共用地の取得において用いられる基準をベースにして公共用地の取得との異同を踏まえて算定されるとされている。

■新たな再生(解消)手法の導入

 改正区分所有法は、建替えではない新たな再生手法を導入している。建物躯体を活かしつつ建替えのような効果を得る建物更新決議(一棟リノベーション)、建物と敷地を併せて売却する建物敷地売却決議、建物を取壊した上で敷地を売却する建物取壊し敷地売却決議、建物を取壊すための取壊し決議である。いずれも全員合意でなければできなかったものを、改正によって前記の建替えと同様の要件(緩和事由も含めて)での決議によって可能とするものである(これまでもマンション建替え等円滑化法によるマンション敷地売却であれば5分の4の多数決決議で可能ではあった)。

■再生は促進されるのか?

 これまで建替えることができたマンションは経済条件(容積率の余裕や立地)が良いものが中心であった。現在のストックは経済条件的には優れていないものも多く、それに加えて近時の建築コストの上昇も相まって、最近は建替えをするための区分所有者の自己負担金は2000万円程度となってきている。今後これは更に上昇していくだろうし、経済条件によっては自己負担金はさらに高額になる。

 建替えが実現できなかった原因は、決議要件のハードルが高いことよりも、むしろ経済条件であろう。建替えが難しい場合には、既存躯体を活かせる分コストを抑えられる一棟リノベーションや、建物敷地売却も再生への選択肢となる。

 マンションの再生の促進には、行政による支援を含めて総合的な施策が必要となる。行政による支援を強化するには、都市部における重要な居住形態であり重要な居住ストックを形成しているマンションの社会的資産性と管理不全に陥った場合の外部不経済性等から、積極的に支援の正当化を図る必要がある。

 さらに、区分所有者は最終的にはマンションを解体する責務を負っていると考えられることから、取壊積立金の制度形成に向けた議論も始めなければならない。それともに、マンションデベロッパーなど開発業者がマンション開発によって得た利益を別の地域の新たな開発に投下し再び利益を得ていくのではなく、開発したマンションの終い方にも責任を持つことに関する議論を始めなければならない。

 マンションのライフサイクルのための負担をマンションにかかるステークホルダーがどのように分担するのかを本格的に議論しなければならない時代が到来した。(つづく)

横浜マリン法律事務所代表弁護士/横浜市立大学大学院客員准教授 佐藤元

集合住宅管理新聞「アメニティ」2025年10月号掲載