法律Q&A 管理費から自治会費の支払いについて(2025年9月号)
Q
私たちのマンションには自治会があり、自治会への加入は任意ですが、多くの居住者が加入してくれています。また、管理組合の規約には自治会に団体として加入すること、管理費から自治会費を払うこと、管理組合が自治会を脱退する場合には総会の特別決議が必要であることが定められています。従前自治会にも加入してくれていたAさんが自治会を退会して、管理組合に対して、自治会に自治会費を払うことを承認した総会決議が管理組合の目的外行為になるので、また、自治会について定めた規約の条項も無効であると主張しています。Aさんの主張は認められるのでしょうか。
A
この点が争われた裁判例として東京地方裁判所令和4年7月20日判決があります。この事件では原告は、管理組合は土地、附属施設や建物の管理を行うための団体であるから管理費から支出が許されるのもこれらの業務のために必要な経費に限られる。管理組合の目的に逸脱する規定を規約に定めてもそれは無効である。本件自治会は地域住民相互の親睦や助け合いを目的とした団体であり、これは管理組合の目的とは関係がないと主張しました。
裁判所は、管理組合の目的については、原告の主張と同様に「建物等の管理又は使用に関わりのない事項は、規約で定めても無効である。」としつつも「管理組合もその活動の一環として、他の団体に加入すること自体は否定されないが、当該団体へ加入することが建物等の管理又は使用に関する事項に該当し、建物等を維持していくために必要かつ有益であることを要する。」としました。
その上で、本件の自治会が「生活環境の改善・向上のための活動」、「地域社会の構成員としてその責務を果たす活動」を基本方針として掲げており、防災訓練、定期的な清掃活動、美化活動(花壇設置)を行っており、これらの活動は、本件マンションの建物等を維持していくために必要かつ有益な行為に該当すると判断しています。また、自治会が行っているイベントやサークル活動は、管理組合の目的には含まれないという原告の指摘に対しては、「本件自治会への加入が建物等の管理に必要かつ有益なものであるから、自治会が管理組合の目的に含まれない活動を行っているとしても、自治会への加入が、管理組合の目的の範囲を逸脱することにはならない」としています。
その上で、「加入に係る規約を定めることができるのであれば、当然退会についての規約を定めることもできることになる。また、被告が自治会費として支払う費用は、本件自治会が被告の目的に沿った活動を行うことに対する対価としての性質を有し、被告組合員の自治会費を代理徴収して支払う関係にあるとはいえないのであるから、この点をもって被告組合員の本件自治会に対する脱退の自由を侵害することにはならない。」として、原告の組合員の請求を棄却しています。もっとも、少し注意が必要なのは、本件の裁判例でも「被告と本件自治会との関係に照らして、本件自治会への加入及び脱退を定める各条項が、区分所有法で定められた被告の規約事項を潜脱する意図で定められたことが明らかであるなどの特段の事情が認められる場合は規約の効力が否定される余地もないとはいえない」としている点です。どのような場合が潜脱と認定されるかは具体的な事案によりますが、自治会の活動のほぼ全てが建物の管理に有益とはならないパーティー等の催事に使われて、管理組合の負担する金額が大きい場合などは無効と判断される可能性があると思います。
本件では、そのような例外的な事情がない限りAさんの主張は認められないと思います。
法律相談会専門相談員 弁護士 石川 貴康
集合住宅管理新聞「アメニティ」2025年9月号掲載