マンション法の改正 3 区分所有建物に特化した財産管理人と国内管理人(2025年9月号掲載)

■区分所有建物に特化した財産管理

 改正区分所有法により、所有者不明専有部分管理制度、管理不全専有部分管理制度及び管理不全共用部分管理制度という区分所有建物に特化した財産管理制度が創設される。いわゆる「二つの老い」に起因する所有者不明化や管理不全化に対応するための制度である。

 所有者不明専有部分管理制度は、「区分所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない専有部分」について、「必要があると認めるとき」に、「利害関係人の請求」により、裁判所が専有部分等の管理のための所有者不明専有部分管理人を選任する制度である(改正区分所有法46条の2)。相続財産清算人や不在者財産管理人は「人」単位でその者の財産全てを管理する制度であるが、本制度は「物」単位で当該専有部分等についてのみ管理する制度である。所有者不明専有部分管理人に管理処分権が「専属」し、区分所有者は同権限をはく奪されるため、集会の議決権は同管理人が行使する。同管理人は、裁判所の許可を前提に、管理対象である専有部分等を売却することもできる。

 管理不全専有部分管理制度は専有部分の管理が不適当であり近隣住民など他人の権利・利益を侵害しまたは侵害するおそれがある場合に、利害関係人の申立てによって、裁判所が管理不全専有部分管理人を選任する制度である(改正区分所有法46条の8)。専有部分である配管からの水漏れ、専有部分のごみ屋敷化などへの対応の場面での利用が想定される。同管理人には管理処分権は専属しないので、区分所有者に権限が残る。したがって、管理不全専有部分管理人に集会の議決権はない。

 管理不全共用部分管理制度は共用部分の管理が不適当であり近隣住民など他人の権利・利益を侵害しまたは侵害するおそれがある場合に、利害関係人の申立てによって、裁判所が管理不全共用部分管理人を選任する制度である(改正区分所有法46条の13)。外壁コンクリートの爆裂による剥落、タイルの剥落、鉄部の脱落などの共用部分の管理不全によって生じる危険に対応するための制度である。選任された同管理人は、管理不全への対応措置をとることになる。危険性が高い区分所有建物であったとしても、管理不全共用部分管理人は、区分所有者全員の同意と裁判所の許可がなければ建物の解体までは行えない。また、集会の招集権限など区分所有法上の「管理者」のような権限を持つわけでもないので、管理組合をソフト面から立て直すことができるわけではない。

■国内管理人

 区分所有者が国内に住所又は居所を有せず又は有しないことになる場合に、専有部分及び共用部分の管理に関する事務を行わせるため、国内管理人を選任することができる制度が創設される(改正区分所有法6条の2)。区分所有法は区分所有者が国内管理人を選任することが「できる」と定めているにすぎないので、区分所有法上は国内管理人の選任が区分所有者に義務付けられているわけではない。もっとも、管理規約により、国内管理人を選任することを区分所有者に義務付けることもできる。国内管理人は専有部分における漏水の対応や大規模修繕工事の際の立入りの承諾などの保存行為や招集通知の受領・議決権行使の権限を有する。また管理費等を区分所有者に代わって管理組合に支払う権限を有する。管理費等を支払う権限を有するが、その「義務」を負っているわけではない。そのため、管理費等請求訴訟においては、国内管理人は被告にならず国外にいる区分所有者が被告となる。

■集会の招集通知

 財産管理人や国内管理人が選任されている場合、管理組合は表記載の通知先に招集通知を送ることになる。

管理人の種類

議決権の有無

招集通知の送付先

所有者不明専有部分管理人

あり

所有者不明専有部分管理人宛て

管理不全専有部分管理人

なし

区分所有者宛て

国内管理人

あり

(代理として)

国内管理人宛て

■マンション標準管理規約改正の動向

 国土交通省においてこれらの制度に対応した標準管理規約改正の検討をしている。所有者不明専有部分管理人と管理不全専有部分管理人の選任を管理組合が裁判所に申し立てる際には、理事会決議を経ることや同制度の利用によって管理組合が負担することになる費用については当該専有部分の区分所有者に対して請求しうることを標準管理規約において定める予定である。また、国内管理人に関する管理規約の規定例も整備する予定である。(つづく)

横浜マリン法律事務所代表弁護士/横浜市立大学大学院客員准教授 佐藤元

集合住宅管理新聞「アメニティ」2025年9月号掲載