制度を利用してマンションのバリアフリー化を進めよう 低調な優良建築物等整備事業の活用:2019年1月号掲載
昨年、東京都下の築約40年のエレベータの無いマンションで、エレベーターの設置が決まり、地鎮祭が行われた。同マンションでエレベータ設置の鍵となったのが、「優良建築物等整備事業」という国交省の補助事業で、事業費の3分の2の補助を受けたことが挙げられる。そこで今月は同事業を中心に、高経年マンションのバリアフリー化の状況を見てみたい。
永住意向が高まるマンション
2013年に国土交通省が実施した「マンション総合調査」によれば、世帯主の50・1%が60代以上と高齢化が進む一方で、調査対象者の52・4%が現在のマンションに「永住したい」と考えている。
次にエレベーターの設置状況を見ると、完成が1969年以前のマンションの46・2%にエレベーターが無く、概ね昭和の時代に分譲されたマンションの約3割(高層マンションも含む)にエレベーターが無い。
マンションへの永住意向は高いものの、特に高経年のマンションではエレベーターの設置率が低く、これらのマンションに高齢者が住み続けるには、一度外出したら自宅までへの移動が大きな「バリア」となり、今後はさらにこのような高齢者が増えることが予想される。
利用されなかった「優良建築物等整備事業」
「優良建築物等整備事業」は、1983年に創設された制度で、制度の中でも「優良再開発型」「市街地住宅供給型」等、いくつかのタイプがあり、事業創設から21年後の2004年に今回利用された「既存ストック再生型」(概要は別表1を参照)が追加された。
しかし、その後「既存ストック再生型」の利用は無く、昨年、エレベーター設置を決めたマンションで初めて同制度が利用されたという。
同制度の創設に携わった元国交省職員のA氏によれば「制度の認知度が低かったことと、制度創設当時はマンション居住者もまだ若く、エレベーターの必要性をそれほど感じていなかったのでは」と、これまで制度の利用が無かった理由に挙げている。
全ての人に優しい「バリアフリー化」を
エレベーターが無い建物にエレベータが設置されると、居住者の満足度や属性、転居率等への影響があるのか、確認したいところだが、分譲マンションではその例が少ないため、設置事例を持つUR(都市再生機構)に確認した。
URの担当者によれば「転居率等の情報については非公表としているため、お知らせできない」ということであったが、「高齢者の方はもちろん、若い方にも好評いただいています」とのことであった。「ベビーカーを抱えて階段を上り下りするのは若い方でも危険ですが、その心配が軽減された」ことが特に子育て世代に好評の理由という。
「バリアフリー」というと、どうしても高齢者を意識するが、若年世代、特に子育て世帯にとって、エレベーターが無いマンションは「バリア」が高いと感じられるようだ。
あらゆる世代にとって「バリアフリー」であることが、マンションに長く住み続けるには必要なことのようである。
先のA氏は、「高経年マンションに住み続けるには、建物のバリアフリー化は必須。制度を知ってもらい、どうすれば建物のバリアフリー化を進められるか、考えるきっかけにしてもらえれば」ということであった。
(2019年1月号掲載)