マンション管理に広がるIT技術の活用 管理会社の導入事情(2020年9月号掲載)

 新型コロナウイルスの影響により、今年の春は在宅勤務となる企業も現れ、今もその状態が継続中の企業もある。在宅勤務を可能にしているのが、在宅でのweb会議等を可能にするIT技術だが、既に存在していたこれらの技術の活用が、コロナ禍により促進された一面がある。今春以降、三密を避けるため総会や理事会の開催を巡り、創意工夫を凝らす管理組合も多い中、非対面での業務遂行を可能とするIT技術の活用は、マンション管理の現場でも進んでいるのだろうか。

確実に進むIT技術の活用

 マンション管理の現場におけるIT技術導入の進捗状況は、(一社)マンション管理業協会の「マンション管理トレンド調査」が参考になる。

 同調査によれば、「AI・IoT等の先進技術導入」状況は、2019年度調査では、何らかの技術を「導入中」、「試験的に導入」としたのは、回答社332社のうち10%であったが、2020年度調査では、回答社335社のうち、「管理組合収納口座の出納にネットバンキング活用」を「導入済」、「検討中」が52%、「現場での現金のキャッシュレス化(完全+一部)」が同42%と、出納現場での導入が進んでいる。

 さらに「ITを活用した理事会」が、昨年度は2社であったのに対し、今年度は105社(31%)と急速に増えている。

 そのほか、管理組合口座の通帳レス、デジタル掲示板の導入、共用部分への清掃ロボット等、この一年間でIT技術を導入及び検討する管理会社が増えている。

IT活用の実証実験も開始

 また同協会では、「新しいマンション管理様式」として、ITを活用した総会の在り方について実証実験を開始した。

 現行の区分所有法でも、ITを活用した総会と、人が一堂に会するリアルな総会を併用して行う、ハイブリッド型バーチャル総会の実施は可能となっているが、実験では、この形態の新たな総会の在り方を、法的・実務的観点から課題を明確化することを目指している。

 併せて、ITを活用した理事会についても、適正な実施が図られるよう、「マンション管理適正化指針」及び「マンション標準管理規約」の改正を目指し、さらに、将来的なバーチャルオンリー型も視野にガイドラインを策定し、モデルケースを共有することで、ウィズコロナ時代への対応の一助となることを目指すとしている。

 実験には同協会のAI・IoT小委員会参加会社 6社が参加し、今年の9月13日(日)まで実験が行われ、9月末に国交省等の関係機関を含めた検証検討会を予定している。

理事会もテレビ会議が主流の時代に(?)

管理会社のIT技術導入・開発状況事例

 管理会社ではどのようなITの活用・開発が行われているのか。

■㈱大京アステージ・㈱穴吹コミュニティ
 ㈱大京アステージ・㈱穴吹コミュニティでは、次世代型マンション管理サービス「MiDDProject(ミッド・プロジェクト)」の開発に今年6月から着手した。

 同プロジェクトでは、これまで両社に蓄積されたマンション管理の知見に、ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)などの最新テクノロジーを融合させたマンション管理サービスを目指す。

 今後、管理組合や居住者と管理会社の接点をスマートフォンを通じたデジタルに変換することで、時間・場所を問わず利用できるサービスを提供するとともに、建物老朽化等、合意形成が困難な専門性が高いサービス領域へ、管理会社の人的資源を集約させる。

 今年7月には、プロジェクトの第一弾として、「WEB総会サービス」の提供を試験的に始めている。

■大和ライフネクスト㈱
 大和ライフネクスト㈱ は、パソコン・スマートフォン等を利用して、Web上での理事会開催を可能とした「Web理事会サービス」を開発した。

 同サービスにより、理事会の開催通知から議事録の収録までWEBのシステム上で完結するため、スピーディーな理事会運営が可能となる。

 なお、同サービスの利用には、同社提供のマンション入居者専用WEBサイト「住まいサポートネット」の導入が必要だが、新型コロナウイルスの感染拡大以降、同サービスへの問い合わせが相次いだため、すべての分譲マンションで「Web理事会サービス」の協議機能(協議・投票、協議録機能等)を利用できる「リモ・アーボ」を㈱ラージヒルと共同開発し、10月上旬より無料で利用できる。

■三菱地所コミュニティ㈱
 三菱地所コミュニティ㈱は、管理業務自体をアプリ上で完結させるシステムを開発した。同社が開発したアプリ「KURASEL」は、管理組合が管理会社に業務を委託せずともスマートフォン上でマンション管理を行える。なお、同アプリの提供・運営は、イノベリオス㈱が行う。

 同アプリにより、管理会社が担ってきた管理組合の所有者・居住者情報等の基本情報管理から、理事会資料の保管・閲覧、収支状況・支払管理までの全ての業務がスマートフォン及びWEB上アプリで一元管理可能となる。

 利用料金は月3万5千円から(税別・1マンションにつき)。

 今年11月から利用開始が予定されている。

(集合住宅管理新聞「アメニティ」2020年9月号掲載)