マンションの耐震化 実現へのプロセスと課題 1

 今回から3回にわたり、マンションの耐震化に関する基礎知識をお届けしてまいります。

 近年、大地震や水害などの自然災害が頻発し、多くの命が失われています。自然災害そのものを防ぐことはできませんが、地震については被害を最小限に抑える「減災対策」は可能です。

 阪神淡路大震災から30年が経過し、その後においても大地震が幾度も発生しております。神戸の街が燃え続けたことが記憶に残っていますが、あの火災の原因は建物の倒壊が起因して発生したものでした。耐震対策がされていれば、減災することが出来たのです。

 「建て替えか耐震化か」と迷われる方もいます。しかし、大地震はいつ発生するか分かりません。将来建て替えを考えている場合でも、現時点での耐震対策を怠れば、大切な命を危険にさらすことになります。

 自分達のマンションについて、将来のビジョンを持っているマンションは少ないと思います。自分たちのマンションをいつまで使うかを議論しているケースは少ないでしょう。そのため、漠然とした長期修繕計画に振り回され、修繕積立金が将来的に足りるかどうかも不明確になりがちです。旧耐震基準のマンションであれば、築40年以上を超えています。新築当時は考えもしなかった設備の老朽化に費用が掛かる時期を迎えているかと思います。その中で、計画修繕で予定していない耐震化についても検討する必要がありますが、資金難を理由に耐震対策を後回しにしているマンションもあるかもしれません。

 「耐震化には費用が掛かる、見た目が悪くなる」という誤解から、検討すらされないマンションもあります。

 耐震化の費用については、各行政において助成制度を設けている場合もあります。また、現在の耐震性が極端に悪くなければ費用についても皆さんが漠然とイメージしている物よりも費用が掛からないケースもあります。

耐震補強後の外観について

 見た目にあまり影響のない補強を行っているマンションはあるけれども、見た目に分からない為、工法を知らない方が殆どです。皆さんが知っている補強方法は、学校や公共の施設等によく見かけるバッテン型のブレース補強をイメージされていると思います。

 様々な工法があり、ブレース補強は数多くある工法のうちの1つにすぎません。外観を損なわない耐震補強方法も色々とあります。

ブレース補強

耐震診断について

 もし耐震診断を行うと、ひどい結果が出た場合、何もできずに資産価値が下がるので耐震診断すらやりたくないという話を聞くことがあります。弊社で耐震診断を行った結果として、耐震性を満たしているマンションもありますし、耐震性が不足していても、軽微な補強で済むマンションが全体の約60%を占めています。本当に厳しい結果となったマンションは全体の中のごく一部です。

合意形成に向けて

 耐震化の正しい情報を知ることで、耐震化への第一歩を踏み出すことができます。近年では実際に耐震化を実現するマンションも増えていますので、ぜひ参考にしていただければ幸いです。

 

1、耐震化は何故必要なのか

 「マンションが古くなったから耐震化が必要」と思われがちですが、正確には「耐震基準の違い」が理由です。昭和56年(1981年)6月1日に建築基準法の耐震基準が大幅に改正されました。それ以前の基準(旧耐震基準)は、大地震(およそ震度6強~7)を想定してなかったものが、過去の大地震の被害状況を踏まえて、大地震を想定した厳しい基準に改正になりました。また、平成7年に耐震改修促進法が制定され、旧耐震建築物には、耐震性の確認および、耐震対策を行うことを定められた為、耐震化を行う事が必要となりました。

 大地震については、平成に入ってから何回も発生しておりますが、現行法の耐震基準での建築物の倒壊被害はあまり多くはありません。そのため、現行法の耐震基準と同等程度に耐震性を引き上げることにより、災害リスクを抑える事が可能になります。

 次回は「耐震診断の重要性と診断方法」についてご紹介します。耐震診断を受けることで、建物の現状を正確に把握し、必要な耐震補強を行うための第一歩を踏み出すことができます。簡易診断と精密診断の違いや、各診断方法がもたらす結果の違いについて詳しく解説します。(つづく)

株式会社耐震設計 代表取締役 岡田 和広

(集合住宅管理新聞「アメニティ」2025年4月号掲載)