68.再生不能マンションが増えている/倒産も解散も終了も出来ないマンションの今後は

 近年市街地再開発ビルが増えているが、容積率緩和で400%が1000%になるくらい珍しくない。お茶の水駅のそばで1700%に緩和される土地があるが、こうなると正気の沙汰かと目を疑う。もともと容積緩和は錬金術のようなもので行政は何もお金を使わず、使用可能な空間をプレゼントする仕組みである。地方都市では衰退する中心市街地の活性化の切り札として市街地再開発計画が目白押しである。なにしろ至る所で容積緩和は普通だから全てをホテルや事務所で計画するのは困難だ。当然下部を大型店舗か事務所にして上部を住宅にする。

 実は複合建物には意外な落とし穴が潜んでいる。目的が異なる空間が一緒になるのだから共同管理に利害の対立が生じやすい。これは計画側が共同管理に対する認識を欠いているために生じることで、立地条件を問わない。
さらに生じやすいのが非住宅施設の空き家化による区分所有建物の共同管理の崩壊である。テナントが長く埋まらない場合は、滞納問題が生じやすい。空洞化によって、中心市街地の商店街がシャッター街化すれば、マンションの店舗等も例外でない。大規模施設は競売しても落札しにくい上、税務署は物納を拒否するから滞納金が毎年累積し巨額化する。大規模修繕が延期されやすい。多くは「道連れ心中型」で老朽化が進行するが、分割管理へ活路を求める場合もある。ただし「話合い型」と「三行半型」に分れる。

 写真のマンションは熊谷市の1974年築で住宅部分4階以上96戸9265m2、非住宅部分1-3階の8273m2の14階建である。スーパーの倒産に乗じてヤクザ系企業が取得したが、取得直後に付属の駐車場を売却処分した結果、非住宅部分の売却も再生も困難になった。非住宅部分の19年間で累積した滞納額は5億4千万円に達する。これではただでも落札者が出ない。

 管理組合は2010年にヤクザ系企業に「三行半」を突き付け、住宅部分だけで大規模修繕を実施した。旧耐震基準の建物で、3階以下は独立柱が多いが、耐震補強をする余裕はない。最終的解決には程遠い。

 ところで再生不能事例は他でも生まれている。リゾートや投資型マンションの中には管理会社が逃げ出した事例がある。所有権者同士が顔を合わさないからモラルハザードに陥り易い。マンションによっては各住宅の電気代の滞納で電力メーターの半数以上が取り外されている。もともと管理組合は機能していない場合が多いから、修繕・清掃なしの放置マンションになり易い。共用の廊下と階段は鳥の糞と蜘蛛の巣だらけである。

 NPO法人耐震総合安全機構の副理事長三木哲氏によると、最近は旧耐震マンションの中からも再生不能事例が見つかるそうだ。自己負担だったら隠れていたマンションも、助成金があると自ら現れてくるから、その威力は大きい。
ただし、診断の結果構造補強をしても安全を保証出来ない場合が出てくるようだ。手術できないほどの末期症状を報告しても、管理組合の解散には至らない。震災で管理組合を解散し、公費で建物を解体した事例でも抵当権を抹消出来ない限り土地の買い手が現れにくい。

 ストックの再生・延命・終了を無事に進めるための法的社会的経済的仕組みづくりが今後早急に必要となろう。(つづく)

2008年撮影、2010年に4階以上の住宅部分のみで大規模修繕を実施。足元の空き家・滞納歴は19年にわたり、先の見通しはない。

(2013年8月号掲載)
(高崎健康福祉大学教授 松本 恭治)