分譲業者設置の広告塔使用料をとれるか? (2006年7月号掲載)

Q.

私たちのマンションの屋上には、分譲業者Aが設置した広告塔が置かれています。広告等は現在は無償ですが、管理組合BはAから使用料をとることは出来るのでしょうか?

 

A.

このような相談は現在でも少なくないのですが、既に所謂「高島平マンション事件」が最高裁判所まで争われています。高島平マンション事件では駐車場の専用使用権の消滅と屋上看板等の有償化決議の二つの大きな問題がありますが、今回は屋上看板の有償化の点を説明します。

まず、事件の概要は以下のとおりです。
1.分譲業者Aはマンションの分譲に際し、規約(旧規約)を定め、その中で広告物等の設置のため外壁の一部や屋上についてAの専用使用権を認める旨規定していた。
2.Aは店舗部分の営業のため、屋上にネオン看板やサウナ用クーリングタワーを設置したり、非常階段の踊り場に支柱を設けて袖看板を設置していた。
3.管理組合B(Aも含まれていた)は平成元年に第1回総会を開催して、その際、旧規約に代えて、新規約を設定した。新規約では看板やクーリングタワーを設置するためのAの専用使用権は認める旨規定されていたが、他方で、専有使用権を有している者は、総会の決定があった場合は、Bに専有使用料を納入しなければならないとの規定も定められた。
4.Bは数年後の総会において、4分の3を越える賛成により、新規約に基づき、Aの専有使用権に関して、一定の使用料を払うことを内容とする所謂「有償化決議」を行ったが、この有償化の決議の有効性が争われた。東京地方裁判所はこの有償化決議を有効であるとしたが、東京高等裁判所はこれを無効と判断したため、Bは最高裁裁判所に上告した。

最高裁判所は有償化決議について次のように判断しました。「従来無償とされてきた専用使用権を有償化し、専用使用権者に使用料を支払わせることは、一般的には不利益を及ぼすものであるが、有償化の必要性及び合理性が認められ、かつ設定された使用料が当該区分所有者関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者は専用使用権の有償化を受任すべきであり、そのような有償化決議は専用使用権者の権利に特別の影響を及ぼすものではない」つまり、最高裁判所は一般論としては有償化は「社会通念上相当な額」であれば認められるとの判断をしたのです。

区分所有法31条1項後段では「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」と規定されています。もし、有償化の決議がAに特別の影響を及ぼすのならAの承諾がない以上、決議は無効ですし、特別の影響を及ぼすものではないとするならAの承諾がなくても決議は有効となります(本件ではAの具体的な不利益は規約の改正ではなく、有償化の決議により生じているので、特別の影響の判断は有償化の決議について判断することになります)。

そうすると、「特別の影響」をどのように判断するのかが大変重要になります。この点に関して最高裁判所は別の事件で「特別の影響を及ぼすべきとき」とは「規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益との比較衡量し、当該区分所有者関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいう」と判断。ここで、重要なのは形式的に不利益が生じる場合の全てが「特別の影響」があると判断していないことです。

Bの立場からすれば、無償で看板の設置を認めることは、何らの経済的利益もないこと、設置場所が共用部分であることから、有償化の必要性や合理性は認められるというべきでしょう。他方で、Aの立場から見ても、権利が消滅すれば、不利益は大きいと言えるでしょうが、有償化であれば、使用自体は認められること、使用料を払うことで権利関係が明確化、強固になる側面もあることを考慮すればAが受ける不利益はそれほど大きなものではないと言えます。使用料が適正な金額であれば有償化をすることは認められるとの結論になります。

回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・石川貴康
(2006年7月号掲載)