法律Q&A 管理組合の議事録等はデジタルカメラで撮影可能か(2021年11月号掲載)

 

 区分所有者から、管理組合(非法人)の議事録、会計帳簿及びその裏付けとなる原資料(見積書、契約書、請求書、領収証等の資料)の閲覧及びデジタルカメラでの写真撮影を求められています。規約上、会計帳簿の閲覧は認められていますが、その原資料については規定がなく、写真撮影についても規定はありません。管理組合は、この求めに応じなければなりませんか。

 管理組合が保有する帳簿類を、組合が閲覧・謄写(コピー)できるかどうかについては、これまで裁判例が多数あります。例えば、東京高裁判決平成23年9月15日(判例タイムズ1375号223頁 )では、規約で閲覧請求権について明文で定めている一方で、謄写請求権について何らの規定がない事案において、謄写請求権を認めない判断をしました。この判決は、管理組合と組合員との関係は、組合の自治で決めるべきであり、その意思決定としての規約の文言を重視した判断といえます。

 ところがその後、規約に規定していない閲覧請求及びデジタルカメラでの写真撮影を認めた大阪高裁判決平成28年12月9日(判例タイムズ1439号103頁 )が出ました。

 本件のQと同様の事案において判決は、管理組合と組合員との間には、前者を敷地及び共用部分の管理に関する受任者とし、後者をその委任者とする準委任契約が締結された場合と類似の法律関係、すなわち、民法の委任に関する規定(民法645条)を類推適用すべき実質があるとしました。民法645条は、受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告しなければならない、としています。そこでこの判決は、「管理組合は、個々の組合員からの求めがあれば、その者に対する当該マンション管理業務の遂行状況に関する報告義務の履行として、業務時間内において、その保管する総会議事録、理事会議事録、会計帳簿及び裏付資料並びに什器備品台帳を、その保管場所又は適切な場所において、閲覧に供する義務を負う」とし、民法645条の報告義務の履行として、「少なくとも、閲覧対象文書を閲覧するに当たり、閲覧を求めた組合員が閲覧対象文書の写真撮影を行うことに特段の支障があるとは考えられず、管理組合は、上記報告義務の履行として、写真撮影を許容する義務を負う」と判断しました。

 この大阪高裁の判例で特筆すべきは、民法645条を類推適用すべき根拠として、マンションの管理の適正化の推進に関する法律3条に基づいて定められた「マンション管理適正化指針」を挙げている点です。同指針は、管理組合の適正な運営のためには、管理組合の管理者等は、区分所有者等の請求に応じて帳簿類を速やかに開示して、経理の透明性を確保する必要があるとしています(指針二の4など)。

 結論としてこの判決は、情報開示に関し、規約の文言を重視する考え方をとらずに閲覧等を認めました。しかし、規約を中心とした自治それ自体を否定したわけではなく、むしろ、より民主的で適切な自治が可能となるように法解釈をした結果といえます。

 以上から、管理組合としては、議事録や会計帳簿のみならず、会計帳簿の原資料の閲覧や写真撮影を認めるべきと思います。

法律相談会相談員 弁護士 内藤 太郎

(集合住宅管理新聞「アメニティ」2021年11月号掲載)