法律Q&A 組合員配偶者からの預金通帳等の閲覧請求は認められるのか(2023年9月号掲載)

 

 私が理事長をしているマンション管理組合の組合員であるBさんの配偶者であるCさんから預金通帳と工事業者に対する請求書の閲覧請求がなされました。そもそもCさんは組合員ではないので閲覧を認める必要はないので拒否しようと思いますが、問題ないですか。なお、規約は標準管理規約とほぼ同じですが、組合員と同居する親族は理事になれることになっています。

A 

 標準管理規約では、理事長は、会計帳簿等を作成・保管して、組合員又は利害関係人が書面で請求した場合は閲覧させなければらないことを規定しています。本件でCさんは組合員ではないので「利害関係人」に該当するか否かが問題となります。この点が問題となった裁判例(札幌地方裁判所令和4年5月26日判決)があります。
 

 この裁判例では「(規約の)利害関係人とは、本件のマンションの管理について区分所有者たる組合員に準ずる管理規約上の地位を有する者であって、その地位に基づき管理組合に対して会計帳簿等の閲覧を請求する法律上の利害関係があると認められる者をいい、単にその閲覧につき事実上の利害関係を有するにすぎない者は含まれない」とした上で、本件マンションの規約(標準管理規約45条2項)では、専有部分を占有する者は、会議の目的につき利害関係を有する場合には、総会に出席して意見を述べる権利が認められていること、(標準管理規約では役員は組合員から選任するとされていますが)本件マンションの規約では組合員と同居する配偶者にも理事の選任資格が認められており、管理組合の役員として組合の運営に主体的に参画する地位を与えられていることを指摘した上で、「区分所有者の配偶者として本件マンションに居住する原告は、本件マンションの管理について区分所有者たる組合員に準ずる地位を与えられている者といえるので、管理組合に対して、会計帳簿等の閲覧を請求する法律上の利害関係があると認められる。」として閲覧請求権を認めました。

 他方で、区分所有権を譲渡した者(元組合員)が、自らが組合員であった当時の役員の不正行為を追及するために必要があるとして会計帳簿等の閲覧を求めた事案で東京高等裁判所平成14年8月28日の判決は、元組合員は法律上の利害関係を有しないので「利害関係人」には該当しないとして閲覧請求の権利を否定しています。

 「法律上の利害関係」がある者なのか、単なる「事実上の利害関係」があるにすぎないのかは、閲覧請求している者の地位やその者の規約上の扱い、閲覧請求の目的等を考慮して個別具体的に判断することになりますが、本件のCさんについては閲覧請求権が認められることになります。

法律相談会専門相談員 弁護士 石川 貴康

(集合住宅管理新聞「アメニティ」2023年9月号掲載)