法律Q&A 2戸所有組合員が隔壁を撤去。原状回復を求められるか(2023年1月号掲載)

 共用部分の工事のために組合員のAさんの居室(201号室)に立ち入ったところ、隣の202号室(この部屋もAさんが所有しています)との間の隔壁を撤去して、2戸ある住居を1つとして使用しています。

 撤去した隔壁を元に戻すように勧告したところ、Aさんは自分が201号室と202号室を同時に購入した際には既に隔壁は撤去されていたのであり、自分が撤去したものではないから元に戻すつもりはないと反論しています。仮に、Aさんの言い分が事実だとすればAさんに原状回復を求めることはできないのですか。

 また、Aさんは隔壁を撤去しても、建物の構造計算上は強度は全く落ちないと主張して、1級建築士の意見書を出してきました。構造計算上、強度が全く落ちない場合は原状回復工事は認められないのでしょうか。

 隔壁は共用部分であるので、それを勝手に撤去することは区分所有法6条1項に規定されている「共同の利益に反する行為」となります。

 「共同の利益に反する行為」については、区分所有法57条1項で「その行為の結果の除去」(原状回復工事)を求めることができます。裁判上で原状回復工事を求める場合は、総会での決議が必要です。 

 今回の隔壁の撤去をAさんが行っていたのであればAさんに対して裁判で原状回復工事を求めることができることは明らかです。

 では、Aさんの前の所有者(Bさんとします)が隔壁を撤去していた場合はどうでしょうか。

 Bさんが隔壁を撤去した時点で、Bさんは「共同の利益に反する行為」に行ったことで原状回復工事を行う義務を負っています。

 Aさんは201号室と202号室の所有権をBさんから取得することで、Bさんの権利義務の一切を承継することになりますので、原状回復工事を行うという義務も引き継いでいることになります。

 したがって、Aさんの主張は通りません。

 次に、隔壁の撤去について、構造計算上は安全性に問題ないので共同の利益に反する行為には当たらないというような言い訳をされることは珍しくありません。

 しかし、隔壁の撤去は共用部分の変更に該当するので本来であれば、総会の特別決議が必要となります。このような適切な手続を得ないで、無断で隔壁の撤去を行うこと自体が「共同の利益に反する行為」に該当します。

 区分所有法が禁止している「共同の利益に反する行為」は結果的として具体的な危険性のある行為だけではなく危険性のある行為も禁止していると考えられます。

 したがって、構造計算上強度が落ちていないという主張は不適切であり、原状回復工事は認められることになります。

法律相談会専門相談員 弁護士 石川 貴康

(集合住宅管理新聞「アメニティ」2023年1月号掲載)