法律Q&A 管理組合が区分所有者へ弁護士費用を請求できるか(2022年3月号掲載)

Q 

 管理組合が区分所有者に対して訴訟を起こす場合、弁護士費用も請求できますか。

A

 どのような訴訟を起こすかによって、また、管理規約の規定によって結論が変わってきます。

 まず、債務の不履行に基づく損害賠償として、弁護士費用を請求することは、原則できません。滞納管理費等を請求する訴訟は、これに該当します。但し、管理規約に、弁護士費用を滞納者に請求できる旨の規定がある場合は請求ができます。しかも管理組合が弁護士に支払義務を負う一切の費用を請求できます(東京高裁平成26年4月16日判決(判例時報2226号26頁))。

 なお、弁護士費用を特定の滞納者に負担させる旨の総会決議があったとしても、無効と解されています(東京高裁平成7年6月14日判決(判例タイムズ895号139頁))。単なる総会決議ではなく、規約の規定が必要となりますので、注意してください。

 標準管理規約には、「組合員が・・・期日までに納付すべき金額を納付しない場合には、管理組合は、その未払金額について、年利〇%の遅延損害金と、違約金としての弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用を加算して、その組合員に対して請求することができる。」と規定されています(単棟型60条2項)。

 他方で、不法行為に基づく場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額、その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものにかぎり、請求できるとされています(最高裁昭和44年2月27日判決(判例タイムズ232号276頁))。

 不法行為とは、他人の権利を違法に侵害することをいいます。区分所有者に対する訴訟では、滞納管理費等の請求以外のものの多くが、この不法行為に基づく場合になると思います。例えば、敷地内の違法駐車を原因とする訴訟などが考えられます。この場合は、規約に規定がなくても、区分所有者に対して弁護士費用を請求できますが、規約に規定がない場合、必ずしも弁護士費用全額の請求が認められるとは限りません。規約に規定があれば、上記の東京高裁平成26年判決との均衡上、弁護士費用全額の請求が認められると思われます。標準管理規約には、「・・・訴えを提起する場合、理事長は、請求の相手方に対し、違約金としての弁護士費用及び差止め等の諸費用を請求することができる。」と規定されています(単棟型67条4項)。

 なお、金銭債務の不履行、不法行為を問わず、規約の規定を根拠に弁護士費用全額の請求ができるのは、規約で定める弁護士費用等は違約金であって、その性格は違約罰(制裁金)であるからです。したがって、規約化する際は、「違約金」の文言を入れるべきと思います。なお上記の東京高裁平成26年判決は、「「管理組合が負担することになる一切の弁護士費用(違約金)」と定めるのが望ましいといえよう。」と述べています。

法律相談員 弁護士 内藤 太郎

集合住宅管理新聞「アメニティ」2022年3月号掲載