共用部分の給水管から居室へ水漏れ、管理組合の賠償責任は?(2019年7月号掲載)


 先日、共用部分の給水管から水漏れが生じ、Aさんの専有部分である居室に損害が生じてしまいました。管理規約には、標準管理規約と同様に、「共用部分の管理については、管理組合がその責任と負担においてこれを行う」旨の規定があります。Aさんは、水漏れは管理組合の責任であるから、管理組合が損害を賠償すべきであると言っています。管理組合は、Aさんへ賠償しなければなりませんか。


 まず、Aさんの言い分の根拠としては、2つの法律構成が考えられます。1つは、前記の管理規約の規定に基づき、管理組合は、区分所有者との関係で、漏水の原因となっている共用部分を修繕し、区分所有者に漏水被害が生じないよう修繕等を行う義務を負っているにもかかわらず、これを怠ったことにより水漏れが生じたのであるから、管理組合は、Aさんに対し債務不履行に基づく損害賠償責任を負うという構成です。もう1つは、民法717条1項で規定されている工作物責任です。すなわち、土地の工作物の設置や保存に不具合があって、これにより他人に損害を与えてしまった場合、その工作物の占有者は、被害者に対して原則的に損害を賠償する責任を負います。ですので、管理組合が、この「占有者」にあたるとすると、原則、管理組合はAさんへ賠償する責任を負うことになります。

 類似の事案において、いずれの法律構成においても、管理組合の責任を否定した判例があります(東京高裁平成29年3月15日判決/判例タイムズ1453号115頁)。まず、債務不履行の構成については、「(規約の)規定は、区分所有法3条の団体(管理組合)…の目的・権能を定めた規定であって、…(管理組合)と本件建物の個々の区分所有者との間の権利義務関係を定めた規定ではない」と判断しました。また、工作物責任の構成については、「本件建物の共用部分の占有者は、管理組合…ではなく、本件建物の区分所有者の全員である。(管理組合)は、…本件建物の共用部分を管理しているが、管理責任があるところに占有があるとはいえないのであり、管理組合が共用部分の占有者(民法717条1項の第一次的責任主体)であるとみるには無理がある。」と判断しました。この判例に従うと、管理組合は、Aさんへ賠償する必要はないとの結論になります。

 しかしながら、少なくとも民法717条1項(工作物責任)の管理組合への適用を否定するこの高裁判例に、私は賛成できません(この高裁判決の原審である前橋地裁高崎支部の判決は、工作物責任及び債務不履行責任の構成により管理組合の責任を認めました)。この高裁判決を前提とすると、被害を受けたAさんは、他の区分所有者の全員に賠償を求めるなど事実上困難な手段でしか救済が図られませんが、それでいいのでしょうか。「区分所有者の全員」は、管理組合に共用部分の管理を任せています。民法717条1項は、工作物の安全性を確保できる立場にあるのは占有者であると考えて、原則的な責任を占有者に負わせました。であるなら、工作物の安全性を確保できる立場にあるのは、管理を任された管理組合ですから、管理組合が第一次的な責任を負うべきです(稲本洋之助、鎌野邦樹「コンメンタール区分所有法(第3版)」(日本評論社/72頁参照)。

 なお、類似の事例について、管理規約及び工作物責任に基づく責任を管理組合に負わせた高裁判例も存在しますから(福岡高裁平成12年12月27日判決/判例タイムズ1085号257頁)、注意が必要です。

 

 

回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・内藤 太郎
(2019年7月号掲載)