オーバーローンの滞納者物件の強制競売(2010年7月号掲載)

組合員のAさんに対して50万円の滞納管理費を請求する裁判を提起して認められましたが、支払わないのでAさんの専有部分と敷地利用権の強制競売の申立をしました。不動産の買受可能価額は300万円ですが、抵当権者であるB銀行の債権が500万円残っているので、競売を取り消すことを予告する通知が裁判所から来ましたが、どうしたら良いでしょうか?

強制競売の申立債権者(本件では管理組合)が、目的不動産が落札・売却処分された場合に、請求している債権について全く弁済が受けられないことが見込まれる場合を「無剰余」と言います。

本件でも管理組合の債権(50万円)よりも、B銀行の担保権が優先しますから、落札が見込まれる金額が銀行のAさんに対する債権額(500万円)に満たなければ「無剰余」ということになります。

民事執行法という法律で無剰余の場合は目的不動産の換価をすることは許されないという原則が定められています。

そして、裁判所は無剰余となる可能性がある場合はその旨を差押債権者に通知しなければなりません。

このような通知を受け取った場合、申立債権者は1週間以内に、(1)手続費用と優先債権の見込額の合計額以上の金額で買い受けの申出をするか(2)不動産の買受可能価額が手続費用と優先債権の見込額の合計額に満つることを証明するか(3)優先的債権を有するものの同意を得たことを証明すれば競売手続を続行することができます。

いずれかの方法をとらなければ競売は取り消されます。
管理組合が(1)や(2)の手段を取ることは通常は無理ですから、(3)の方法をとることを考えます。

即ち、本件ではB銀行の同意を得ることができれば競売手続を続行することができます。
滞納管理費の支払義務は新所有者に引き継がれますから、滞納が継続されることは不動産の価値=担保権の価値を下げることになります。
この点をB銀行に説明して、競売手続の続行について同意をもらうことが考えられます。
AがB銀行に対する返済も滞っていれば、B銀行は同意してくれることが多いと思います。

他方で、AがB銀行に対して契約書に従った返済を継続しているのであれば、B銀行が競売手続の続行に同意することはないと考えられます。

その場合、管理組合の申し立てた競売は「無剰余」を理由に取り消されることになります。

そうすると、「無剰余」である限りは、Aさんが滞納を継続しても、マンションから追い出す手段がないことになりそうですが、このような結果は不当でしょう。

この場合区分所有法59条に規定されている競売の請求をすることができます。59条に基づいて開始された競売手続については「無剰余」の適用がないと考えられています。

59条の詳細については次回のQ&Aで説明します。

回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・石川貴康
(2010年7月号掲載)