滞納者への給湯停止を規約で定めている。管理費を支払わないYさん宅の給湯を止めても問題はないか?(2010年5月号掲載)

私達のマンションは集中給湯設備付として分譲されていますが、組合員のYさんが管理費を滞納しています(個別の給湯利用料金は支払っています)。督促状を出しましたが支払ってくれません。規約には管理費や給湯利用料金を滞納した場合は給湯を止めることができることが定められています。

規約に基づいて給湯を停止したいと思いますが、問題がありますか。

本件の設問とほぼ同じ事案が実際に裁判所で争われたことがあります。

その裁判で給湯を停止された居住者は、給湯を停止されると入浴もシャワーも使うことが不可能となって人間としての最低限度の文化的生活を営む権利を奪うことになること、正当な理由があって管理費の支払いを拒絶している区分所有者も支払を強制されることになるから、供給停止を定めた管理規約は無効であると主張しました。

裁判所(東京地裁平成2年1月30日判決)は規約が無効であるという主張については「本件マンションの居住者にとって、給湯、冷暖房の供給が不可欠であるとしても、その利用の対価として管理費等を支払うべき義務を負うのは当然であり、その支払を拒む正当な理由があるとすれば、その理由を法的に明確に主張し、後に不当利得としてその返還を求める等の手段に出ることが可能であるから、管理者が、給湯等の利用について管理の委任を受けた区分所有者との間で、管理費等の不払いに対抗する手段として暖房、給湯等供給を停止することが出来る旨を約定することが、直ちに公序良俗に反し、自力救済と同視すべきものであるということはできない」として規約は有効であることを認めました。

他方で、実際に給湯を停止した行為については「給湯停止の措置は、管理規約に基づくもので、あらかじめ管理費等の支払を督促し、給湯停止措置に出ることを警告した上で行われたものであるが、給湯という日常生活に不可欠のサービスを停めるのは、諸経費の滞納問題の解決について、他の方法をとることが著しく困難であるか、実際上の効果がないような場合に限って是認されるものと解すべきである」として、給湯停止行為は違法であるとして慰謝料の支払(30万円)を認めています。
皆さんの感覚だと供給停止を定めた規約が無効であれば許されないけれども、有効な規約に基づいて行った給湯停止が違法と判断されるのは少し違和感を持たれるかも知れません。
しかし、裁判所の考え方は規約に基づいて給湯を停止しても、それが許される場合もあるし、許されない場合もあることです。

前記の東京地裁の裁判例では「他の方法をとることが著しく困難であるか、実際上効果がないような場合に限って」は許されるとも言っています。「著しく」とか「限って」というように許される場合をかなり限定的に考えていると言うべきです。

給湯は所謂「ライフライン」の一つです。このようなライフラインを停止することは、仮に滞納があったとしても安易に行うことはできないと考えておいた方が無難でしょう。

どのような場合にできるのかは弁護士と相談して行ってください。

回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・石川貴康
(2010年5月号掲載)