「建物Q&A」 共用廊下に長尺シートを張ったら水溜まりが出来た(2019年10月号掲載)


 今年、マンションの大規模修繕を実施し、今までコンクリート素地だった共用廊下の床に化粧長尺シートを張りました。ところが大規模修繕竣工後、雨天の日に共用廊下に吹き込んだ雨水が、廊下の先端の側溝の手前で滞留し側溝に流れていかない事が発覚しました。温暖な時期なら若干の水溜まりは乾燥するまで我慢できても、冬期滞留水が凍ると、怪我のもとになります。長尺シートを張る前はなかったのに、何故この様な水溜まりが出来たのでしょうか。何かシートの上に塗って勾配を調整出来ないものでしょうか?


 初期のマンションは、バルコニーや共用廊下(開放型廊下)の床は、どうせ雨が吹き込み濡れる場所だから防水は不要という考えが主流で、防水がされていませんでした。

 しかし、その後バルコニーや共用廊下の雨漏りで、下階の床や天井・洗濯物などが汚れたり、コンクリート躯体を傷めてしまうため、バルコニーや共用廊下の床も防水をするようになってきました。その防水の工法として、近年一番多いのが、側溝や巾木はウレタン塗膜防水を、床面には防滑性ビニル床シートを張る、部位に適した2種類の材料を組み合わせて簡易防水する工法です。

 

 

 

 

 この工法は2種類の材料のつなぎ目から雨もりしないようにそれぞれを重ねあわせて施工します。排水溝や巾木のウレタン塗膜防水を、床の防滑性ビニル床シートの下に10㎝程ラップするように塗り込みます。このため側溝のすぐ手前の防滑性ビニル床シートの下には奥行10㎝(=100㎜)程ウレタン防水が水下で2㎜程度・水上で0㎜程度に水下から水上に向かって勾配をつけ擦り付けるように塗られています。よってここに2㎜/100㎜=1/50の逆勾配が発生します。

 共用廊下は通常住戸側から廊下先端に向かって1/100程度の排水勾配をつけられていますが、排水溝手前のラップ部では上記逆勾配と相殺し1/50-1/100=1/100の逆勾配が残ってしまいます。これが側溝の手前で滞留水が発生する原因です。

 この滞留水を防止するには、床下地を1/50の勾配にしておくか、ラップ部のウレタン塗膜防水の厚みを1㎜以下にしなければなりません。しかし廊下の床を1/50勾配にすると歩行時違和感やバランスが崩れたりします。よって、ラップ部のウレタン塗膜防水を1㎜以下にし、シート端末のシール材でウレタン防水の厚み不足を補うのが現実的です。

 又、勾配不良な防滑性ビニル床シートの上に何かを塗って逆勾配を補正するには側溝に平行に200㎜以上の幅で塗らなければならない上、シートと塗布材との接着性や塗布材の防滑性の検証が必要ですし、仕上がりの美観の低下も想定されますので、お勧めは出来ません。安価な応急措置としては、ウレタン防水とラップしている範囲の防滑性ビニル床シートを切り取り、切り取った部分はウレタン防水のみに置き換えシート端末に端末シール材をしっかり塗布することが考えられます。

回答者:NPO日住協協力技術者
一級建築士 山田 俊二
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2019年10月号掲載)

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