管理費等滞納問題を再考する⑩滞納組合員が死亡した場合を考える。相続放棄されたらどうする?(2)

滞納組合員が死亡した場合を考える。相続放棄されたらどうする?(2)

 

 

1 包括承継人の不存在

 

 

1.滞納組合員の死亡、相続放棄を知るまで

 

前回(管理費等滞納問題を再考する(9))参照

 

2.相続放棄の意味の確認からスタート

わが国では相続主義を採用しているという民法の規定(註18)を熟知していなくても、遺族は財産を相続する権利があることはわかっている。それと同時にあまりなじみがないが相続を放棄する自由も条件も規定(第9回 註17参照)されている。しかし、これらがどんな法的意味と意義を有しているか、正確な知識がないのが普通、それが平均的な市民生活の日常感覚であろう。また管理組合の事務管理においても、基本的に詳細を知らなくても支障がないのが通常であろう。

ところがこの相続放棄が滞納問題の渦中で発生したのである。通常直面しない難題である。事態の深刻さは一目瞭然であるが、戸惑ったら、理事長は法律相談(第6回 註10参照、日住協 法律相談会 (毎月第3水曜日17:00)[詳細])にいくとよい。しかし、その前に問題点を整理し、何を相談するのか論点を明示できないと適切な助言を期待できない。予備知識をもって争点を把握した上で、赴くことにしよう。

(1)相続放棄は自己のために発生した相続の効果を全面的に拒否するものである。放棄に当たっては条件や期限をつけることはできず、単純でなければならない。

相続放棄、この自由は絶対的である。法定相続人が家庭裁判所に申述し、受理審理によって効力を生じる。その申述は要式行為なので、申述書を作成し、相続を知ったときから3ヶ月以内に、管轄の家庭裁判所に提出しなければならない(註19)。それには相続を放棄する旨を記載するが、放棄の理由は問わない。またこの際、財産目録の調整・提出も必要ではない。

放棄の申述は一人一人個別にしなければならないが、他の相続人に通知する必要はない。放棄は意思表示であり、相続人の意思にかかっており、法定相続人に帰属する一身専属権であるから任意代理は許されない。ただし、放棄の効果が財産的なものであるので、無能力者を保護するために法定代理は当然許されている(註20)。

(2)相続放棄は相手方がいない単独行為である。したがって、利害関係のある管理組合に相談なしにことがすすめられていてもルール違反ではない。管理組合はこれから建物に無人となった専有部分一室とその滞納管理費等をかかえていくわけである。

放棄の効果として、相続を放棄した者は、その相続に関してははじめから相続人とならなかったものとみなされる(註21)。自己に不利益となる相続が明らかな場合、法定推定相続人が生活の安定を守る等のため行使する有益な法的手段となっている。俗に”親の借金を子どもが返す”という古いしきたりに束縛されないよう、個人の人権の問題としてあることを理解すれば、管理組合がとるべき道は明らかである。遺族は包括承継人であることを拒否したので、遺族に滞納管理費等を催告できないという法論理に従うのである。

(3)なお、この相続放棄された専有部分には管理組合に対する滞納金以外に多額の債務を担保するために抵当権等物権がついていたり、また差押さえになっていたりする複数の債権者が他に存在することなど、管理組合では知るよしもない。まして管理費等債権はすべて、それらの物権にたいして、優先権がない。これは財産法の根本原則である。現行法で解決策はあるのか。

(4)以上、この事態が発生した当時の理事長が問題解決に着手しておらず、その後の理事長にも正確な申し送りがなく、ただ長期滞納者としてのこされている場合、問題の争点は深刻さを極める。後年、解決にかかわる理事長は理事会全体への本質的解決へのエネルギーの醸成をもふくめて、その滞納問題の特殊性と専門性にチャレンジするリーダーシップが重要な鍵となろう。

(註18)
民法第896条参照
(註19)
家事審判規則第114条。管轄は被相続人の住所地または相続開始地の家庭裁判所。
(註20)
民法第917条
(註21)
民法第939条

(2006年5月号掲載)