管理費等滞納問題を再考する⑨滞納組合員が死亡した場合を考える。相続放棄されたらどうする?(1)

滞納組合員が死亡した場合を考える。相続放棄されたらどうする?(1)

はじめに

組合員が管理費等を滞納したまま死亡する場合もある。このようなケースでは区分所有権を相続した遺族が包括承継人(註15)として管理費等債務を管理組合に支払う責任を負っている。区分所有権を承継した遺族が不動産移転登記をすると、理事長は早期に滞納管理費等債権を明確に提示し、滞納問題を解決することが肝心である。これは区分所有法上の原則である。

管理組合は滞納管理費等債権者として請求できるのだが、包括承継人の対応には次のようにさまざまな態様がある。

 

まず包括承継人に催告する。

 

1.原則的に包括承継人が滞納管理費等を全額支払ってくれると、問題は解決する。通常のケースである。

2.包括承継人が催告を無視、支払いに応じない。その後も滞納する。解決は長期化、難航する。

3.滞納管理費等債務を負ったまま売却する。特定承継人(註16)に入居時に請求し、全額支払を受け、解決する。

4.包括承継人の不存在、すなわち遺族が相続放棄、転出。

2・3の場合、解決への方法は前回までに述べた内容を参照、応用して対処されたい。4の場合について以下に論述していく。

1 包括承継人の不存在

1.滞納組合員の死亡、相続放棄を知るまで

(1)管理組合では、故人となった組合員と遺族との間に相続関係が当然のように発生しているものと考えて事務処理をすすめる。すなわち、同居の親族が包括承継人であるとみなして滞納問題の解決に当たる。

名義変更の報告がない場合、管理組合では支払いの督促を故人名義で同居の遺族におこなうしかない。故人となった組合員と遺族との間に、相続関係が当然のように発生しているものと考えて事務処理をすすめるのである。滞納金額の明細書を交付し、請求、催告を速やかにする。

しかし遺族から支払いに関して応答がない。法的に相続人が別にいるかどうか不問。理事長は入居手続きの際、同居する家族が登録されているので、その名簿を参考にして督促すればよい。別に相続人がいて、自分たちは占有者になるのだと管理組合に明言されていない場合、理事長の請求は善良な管理者としての事務管理である。

(2)そうこうするうちに、同居の遺族が転出。このとき、管理組合に相続放棄したという事実の報告がないし、相続放棄を考えているということも聞かされていない。管理組合ではいつもどおり、通常の転出届を受理してしまう。ここに大きな落とし穴がある。滞納管理費はどうなるのかを見落としている。

まず管理費等債務がある遺族が転出するとき、管理組合は支払いの誓約書の提出等、事務管理規定を用意しておかなければならないということだ。このような規定を準備していないと、通常の転出手続きで事務処理し、その後債権者として滞納管理費等の催告の実効性が非常に難しい対応をせまられることになる。管理費等会計実務と照合して転出書類を確認すること。手遅れがここで予防できる。

(3)転出先に滞納金の支払い催告書を送付する。このとき、相続放棄(註17)をしたので支払う義務はない、という返事を初めて受け、転居後の専有部分は区分所有権者である包括承継人の不存在として空室なのだという事実を知るのである。

この結果をどうするか。

 

 

(註15)
包括承継人は相続によって区分所有者の権利・義務を一括して承継する。
(註16)
特定承継人の責任については区分所有法第8条参照。
(註17)
相続放棄する条件は民法第915~919条、その手続きは同第938~940条参照。

(2006年4月号掲載)