管理費等滞納問題を再考する⑥所在不明組合員と管理組合会計原則遵守のはざまで

所在不明組合員と管理組合会計原則遵守のはざまで

マンション管理組合では前回言及した管理費等滞納金の回収代行業をご利用されたところもあろう。筆者はこの種の活用の経験はない。組合員の所在が不明になってしまった場合、本人の居所を探すに当って、まずは自力で臨む。手がかりがなく不明状態が長期化すると、専門家に相談しないとダメかしら、という気にならないでもない。「足取りの掴めない未納者も探し出して回収します」(前回紹介の『代行業』のパンフレットより)は魅力がある。それでも管理組合で知りえたルートのすべてを探索する努力を惜しまない。親族と面談、職場の関係、自治体等での相談や問い合わせにあわせて、限られた時間の中であらゆる情報を入手するために力を尽くす。守秘義務の原則が前提でのことである。
この探索の合間、他に合理的で、合法的にできる方法はないか、無料・有料の法律相談(註10)を受ける。すなわち、単純・明快な回答を期待して弁護士の<はしご>をするのである。しかし現実的な解決策はなく、アドバイスは事実上、直接的には参考にならないことが多い。管理組合サイドの問題点に対して具体性がないのだ。そうです!法律相談に行っても、管理組合で直面している居所不明者の長期滞納問題のケースについては、有効な即答は出てこない。
では、どうするか。容易な解決方法がないという明白な事実のみ認識できる結果、覚悟して、自分で勉強する。各管理組合は特殊事情にあわせて独自の解決を生み出すしかないのでないか。
まず第1に、組合員が所在不明である場合、その存在をどう理解するか、当該マンションでの入居以来の「個人史のあり様」を把握する。原点に戻って解決の可能性を見極める。
民法では不在者として、第1期の者を「不在者」、第2期の者を「失踪者」とみる。前者は本人がどこかで生存している事実を確証することができるケース、後者は生存しているか否か不明のケースである。組合員が後者の場合であれば、失踪宣告(註11)の手続きをして、法律関係を確定する方向で対応すればよい。筆者の場合、長期滞納問題で、組合員を「失踪者」の概念で解決しなければならないようなケースに立ち至ったことはない。この論は置いておく。
とにかく長期居所不明の組合員については、どの段階にいたっているか、歴代理事長は継続して掌握しておかねばならない。
第2に組合員の長期不在(居所不明)の背景がおおよそ把握できると、財産管理人選任を検討する。信頼できる親族と連絡を取り、管理組合は利害関係人として家庭裁判所にその申立をお願いする。選任された管理人は法定代理人で、その財産管理において、必要な処分を命じることができる(註12)ので、滞納管理費等の適切な解決ができる。しかし功を奏していない。
第3に当該組合員の不動産登記簿を検証する。抵当権者に競売実行を、自治体に公売実行をお願いする。それぞれが費用の負担を厭い、また自己の債権の優先順位に固執して動かない。
第4に滞納管理費等債権の時効中断をめざすこと。

 

 

(註10)神奈川県では横浜弁護士会が総合法律相談センターを開設、県下6ヶ所(横浜駅東口、川崎、横須賀、海老名、相模原、小田原)に無料相談所を置いている。予約制。問い合わせ・本部TEL:045-211-7700。
NPO法人日住協でも月1回無料法律相談を開催(予約制)。
各自治体でも原則予約制で無料法律相談を開催(自治体の広報紙に案内あり)。
通常、弁護士事務所では法律相談は30分で\5,000 の規定。
(註11)不在者が7年間、生死不明である場合、利害関係人または検察官が、裁判所に請求して行うことができる(民法第30条)。管轄裁判所は不在者の住所地の家庭裁判所(家事審判規則第31条)。利害関係人の意味は不在者の財産を管理する者がいないことに法律上の利害関係のある者を広く含むので、管理組合はここに含まれると解することができる。ただし、友人・隣人など含まれない。
(註12)民法第25条1項

(2006.1)