住宅宿泊事業法施行 来年6月に控え 民泊について考える:2017年12月号掲載

 今年6月に成立した「住宅宿泊事業法」。同法により、これまで違法とされてきた民泊も、法の手続きを踏めば適法となる。その一方で、民泊利用者と周辺住民との間では、騒音等のトラブルが報道されてきたことから、一般住民の中には、同法施行後の静謐な住環境の変化を気にする人も多い。そこで同法の概要等を改めて確認したい。

住宅での宿泊事業を認める「住宅宿泊事業法」

 「民泊」には「違法」という言葉がついて回るが、何が違法なのか。それは「旅館業法」違反(旅館業法概要は別表1を参照)。しかし、急増する訪日外国人観光客の宿泊施設不足に対応するため、「住宅」を宿泊施設として活用することが課題となっていた。また、民泊での公衆衛生の確保や地域住民等とのトラブル防止、違法民泊への対応から、「住宅宿泊事業法」が今年6月に成立した(同法概要は別表2を参照)。

「旅館業」と「民泊」を分ける営業日数180日

 表1からわかるように、旅館業法の許可を得るには、様々な基準を満たし、かつ条例も満たさないと許可は得られない。一方、民泊は表2の通り、住宅宿泊事業者及び使用する住宅について、都道府県へ届け出れば済む。

 この様に、同じ宿泊施設でも、「旅館・ホテル」と「住宅」では、扱いが異なる。そこで「旅館・ホテル」と「住宅」を法律上異なるものとして扱う「一定の要件」として、「住宅宿泊事業法」では、年間提供日数180日の上限を設け、上限日数を超える場合は、旅館業法に基づく営業許可が必要とした。

「民泊」は立地の制限も緩和

 ホテルや旅館等の宿泊施設は、都市計画の用途地域で立地が制限されており、良好な住環境を守るために指定される「住居専用地域」では建てられないが、民泊であれば、可能とした。ただし、条例で民泊を制限することもできるため、制限を検討する自治体も出ている。

 東京都大田区では、住居専用地域での民泊実施は完全禁止。東京都新宿区では、住居専用地域の営業を金・土・日(年約156日)とする予定。神奈川県横浜市も、新宿区同様の条例を検討するなど、住居専用地域での営業そのものや、営業日数を制限する条例が検討されている。

民泊運営に必要なコスト

 宿泊者の「衛生確保」について、「民泊」では現在のところ「定期的な清掃及び換気を行う」と言った規定のみである。
清掃や、シーツ等の交換を自分で行えば無料で済むが、いつも自分で行えるわけではない。その場合、清掃代行業者を利用することになる。

 料金は業者により様々だが、多くの場合、部屋の広さに応じて、一回ごとの清掃料金が変わる(一回四千円~一万円程度)。清掃料金にシーツ等のリネン交換も含まれる場合と、そうでない場合があり、リネン交換のみの場合、枕カバー、ベッドシーツ、掛け布団シーツ、タオル一式で五百円というところが多い。さらに、実費の交通費+駐車場代がかかり、夏休み、年末年始等の繁忙期には、特別料金が加算されることもあるようだ。

 結果、衛生確保のため、業者を利用すれば、清掃費+リネン交換代(平均五百円×宿泊人数分)+交通費等がかかる。

 厚労省が今年3月に公表した民泊の実態調査によれば、全国の一泊当たりの平均宿泊料は約一万円と、宿泊料の多くが清掃費等で消えてしまう。

 初期投資が少なく、儲かるという見込から参入者が多かった民泊だが、家主居住型の場合でも、清掃等の業務を外部業者に委託すると、それほど利益は高くない。結果、家主居住型は、利益追求と言うより、様々な国籍の人との異文化交流を楽しみたい人が行うものが主流になると思われる。

(2017年12月号掲載)