マンションに百年住む (12) 報酬の多寡で専門家を決めてはいけない

報酬の多寡で専門家を決めてはいけない

この連載で専門家の役割に何度かふれた。しかし、弁護士にしろ、建築士にしろ、専門家を探すのは容易ではない。どことなく敷居が高いし、依頼料も高そう。取り分けお金のことが気にかかる。ただし、専門家への依頼をパートや派遣さんの時給と比べるのは大間違い。もともと、専門家は物を売ったり、作ったりする商売ではないのだから、報酬の中には、人件費のほか、事務所経費、専門知識の蓄積に要する費用などが含まれる。

ちなみに日弁連は、弁護士報酬は依頼者と弁護士との間で個別に決めるものとした上で、「市民のための弁護士報酬の目安」を出している。一方、建築士の方は、建築士法に基づいて国交省が基準報酬を決めている。しかし、どちらも目安であって経験や年齢によって報酬額が異なる。おおよそは、時給にして一万円から一万五千円程度と思えばよい。

ちなみに理事会への出席を頼むと、通いの時間を含めて三時間として、三万円から四万円程度が必要となる。もともと専門家への依頼は、報酬に見合うだけの成果を期待するのが前提であるから、時給一万円を高いと思うなら、自分たちで知恵を出し合うか、無料でやってくれるメーカーや業者を探せばよい。ただし、努力の甲斐なく、ただほど高いものになることは珍しくない。

もう一つ重要なのは、専門家の位置の問題。弁護士も、建築士も自分の利害を優先したり、企業側で仕事をしている人がいる。その一方で、弱者の擁護を使命とし、あくまで依頼者の立場で支援する人もいる。つまり、専門家の選任は報酬の多寡で決めてはいけないということ。殊に、報酬が安すぎる人には要注意である。建築の世界では、報酬を安くしてメーカーや業者からバックマージンをもらう人がいくらもいる。残念ながらこんなことが一部で常習的に行なわれている。最近は建物保全コンサルタントがずいぶん増えたから、この辺の見極めが重要である。面談の上で、人柄と、管理組合との相性とを考えて専任したい。(満田 翔)

(集合住宅管理新聞「アメニティ」2010年4月号掲載)