管理費等滞納問題を再考する⑬滞納管理費等の請求を断念することの是非について

滞納管理費等の請求を断念することの是非について

~法律上の処分行為~

管理組合が組合員全員の共通の利益のために建物・敷地等の管理に専念する立場は、各組合員が管理費等を毎月納入する義務に裏打ちされている。しかし、ある組合員が管理費等を長期滞納し、督促を繰り返すも、実効性がない場合、管理組合のとるべき方策は?
1.管理組合は、特定の組合員に対して管理費等支払い義務を免除することはできるのだろうか。換言すれば、特定の組合員に対して有する管理費等債権を放棄することは区分所有法上、容認されるのだろうか。 i.これまで12回にわたって論じてきたように、管理組合は原則的に解決をめざす方法をとる。が、実際問題としてそれらの手続きが難しく、また多額のコストが必要であるとすると、滞納管理費等の額と勘案(費用対効果)して、回収を断念するということも選択肢として考えられる。
ii.管理費等滞納金の回収を断念する選択肢は、管理組合に帰属する管理費等債権を放棄することになるので、法律上の処分行為(註25)に当たる。

区分所有法第3条に論拠を置く管理組合としては、その選択の妥当性について検討を要する。なぜなら、管理組合は、いわゆる権利能力なき社団(註26)といわれる法人格を有しない社団(団体)であるから、その選択の有効性を検討しておくことが必要なのだ。

法律上明確な規定がなく、また先例となる判例なく、学説上も、管理組合のような権利能力なき社団の場合、その対外的法律関係をはじめ、内部関係・財産関係をめぐって見解に争いがあるから複雑だ。ここでは、対外的法律関係に関しては割愛し、内部・財産関係について、その論点の概要を紹介しておきたい。
A.総有的に帰属する…
共同所有の一形態、所有権が質的に分有され、その財産の管理処分の権能は団体自体に属すると解する。法人に準じて扱われる。処分行為についても、法人の意思決定手続きによってできる。管理組合の最高意思決定は総会決議であるので、理事長は管理費等滞納金の債権放棄を総会に提案し、承認を受けると、債権放棄、その未納金を会計上、損金処理することが可能となる。
B.合有的に帰属する…
財産は共同所有の一形態である合有的(総有と共有の中間に位する)に組合員に帰属すると解するが、合有権は共有に類似する。法律上の処分行為は共有物の変更に含まれると解されるから、共有物の変更は全員の合意が必要(民法第251条参照)となる。

したがって、滞納管理費等の債権は組合員全員の「共有物」として放棄するには、組合員全員の同意が前提である。一人でも反対者がいると、当然にその放棄はできないという解釈になる。

この場合、特段の合理的理由なく反対する組合員に対しては、区分所有権行使の濫用に当たり、その反対は認められないとする理論構成もありうる(註27)が、これは、また別の争点となり、解決は難しい。

2.その成立の困難さは以上のとおりであるが、管理組合法人でなく、権利能力なき社団である管理組合でも、総有説、合有説のいずれの立場をとるとしても、滞納管理費等の債権を放棄することは選択肢として可能である。
3.しかし滞納管理費等の請求・回収事務管理作業の努力をネグレクトして、安易に「放棄」の策を選択すべきではないだろう。特に、債権を放棄することは管理組合の住環境管理にかかわる資産原則を維持できなくなる危険性を孕んでいることを喚起しておきたい。

 

 

(註25)
債務負担行為に対して用いる観念。この場合、組合員が管理組合に対して有する滞納管理費等債務を直接に移転する効果を生じる行為をさす。
(註26)
法律上の権利・義務の主体となり得ない人の集団。管理組合が法律上の権利・義務の主体となる法人格を取得するには区分所有法 第1章 第6節 管理組合法人(第47条~第56条)参照。
(註27)
『マンション管理センター通信』No.224、24ページ参照。
財団法人マンション管理センター

(2006年8月号掲載)

関連記事