管理費等滞納問題を再考する⑫滞納組合員が死亡した場合を考える。相続放棄されたらどうする?(4)

滞納組合員が死亡した場合を考える。相続放棄されたらどうする?(4)

 

1 包括承継人の不存在

 

1.滞納組合員の死亡、相続放棄を知るまで

第9回(管理費等滞納問題を再考する(9))参照

 

 

2.相続放棄の意味の確認からスタート

第10回(管理費等滞納問題を再考する(10))参照

 

 

3.限定相続の可能性はなかったのか

 

4.管理組合にとって 二つのテーマのために

 

第11回(管理費等滞納問題を再考する(11))参照

 

 

5.相続財産管理人選任の申立て

 

(1)登記簿謄本で確認、債権者と折衝

 

管理費等を未納のまま死亡した組合員の空き室(区分所有権)の登記簿謄本を調べる。この空き室は死者名義で残っている。債務関係も登記されたまま、差押え(註23)、担保物権(註24)もそのまま、債権者は債務を免除していない事がわかる。死者名義のこの空き室を法人として扱い、固定資産税が課せられていることも知る。矛盾は大きい。

 

(2)「選任」を決断する

 

空き室を法人扱いにしても無意味、資力は無である。管理組合は立場が違う。マンションとしては管理費等を分担する組合員がそこに居住するという普通の状態を復活すること、空き室に新しい区分所有者(特定承継人)を迎えること、これがマンションとして当たり前の住環境であり、それを実現すること、そのために死者名義の財産を処分できる法的存在、相続財産管理人を選任する審判を管理組合として申立てる決断をする。

•申立の準備・・・理事長は管轄の家庭裁判所で書記官から申請手続きについてガイダンスを受け、必要経費等、予備知識を得た上で、理事会に提案し、承認を得る。なお、裁判所の指定する管理費用を予納しなければならない。高額なので、その支出を総会で承認を得ておく必要がある。

•申立書作成上の留意点・・・ 1.申立の実情・理由を詳述し、マンション管理上、支障をきたしている内容を正確に明示する。
2.添付書類の中で、最も注意を要するのは、被相続人の戸籍謄本(原本)と法定相続人全員の相続放棄を証する書面(「相続放棄申述受理通知」の写し)を用意することである。

 

3.申立書提出後、管理組合の立場から、相続財産管理人として最適と判断する候補者を上申する。
4.管理費用として予納金を裁判所から指示された要領で管轄の家庭裁判所に納付する。裁判所から、家事予納金として保管金受領証書が簡易書留で送付されてくる。後日、裁判所の審判に基づき、還付請求することができる。

 

 

(3)相続財産管理人の業務

 

上申書どおり、相続財産管理人が選任される。主たる業務は相続財産調査報告書作成、登記名義人表示変更、相続債権者および受遺者への請求申出の催告(官報に2か月掲載)、不動産売却許可の審判申立、売却許可の審判に基づき売却手続き進行、決済・債権者へ一部弁済と残額債権放棄の折衝をへて抵当権抹消・差押え解除の承諾をえて、所有権移転、所有権移転登記の確認、管理報告書作成。

なお、以上の業務の経過・結果は理事長に順次、報告されるが、問題の場面には理事長が立ち会う。そして理事長から積極的に随時連絡を取り、解決に向けて質問や要望等を表明することが大切である。
(4)結論と意義
裁判所の許可により空き室が売却され、購入者が入居し、特定承継人として管理費等の滞納金を全額納入され、管理組合としての二つのテーマ(第11回掲載参照)は円満に解決されたことである。

マンションの維持・管理のために必要とする財源を組合員全員で負担するルールが遵守されていくこと、管理組合はその前提で存在している。その状態が回復したのである。

 

 

 

(註23)
金銭債権についての強制執行の第1段階として、公的執行機関が債務者の財産の事実上または法律上の処分を禁止し、債権を確保する強制行為。
(註24)
債権の弁済を確保することを使命とする目的物の交換価値が目的とした制限物権で、所有権と対立する。民法が認めている担保物権は、留置権、先取特権、質権、抵当権の4種。

(2006年7月号掲載)