多数決で決議された耐震補強工事なのに 工事に反対の理事長は契約書の捺印拒否(2019年1月掲載)


 私は理事をしています。最近の地震被害のニュースを見て私達のマンションでも耐震診断を行い、その結果を受けて耐震補強工事を行うことにしました。理事会で議案を作成して、総会に上程して可決されました。ところが、理事長が耐震補強工事を依頼する業者との契約について自分は署名・捺印しないと言っています。理事長はもともと耐震補強工事は必要ないとして強く反対していましたが、理事会でも総会でも多数決で可決されています。決議されたことに従わない理事長の対応は問題だと思うのですが、どのように対応したら良いでしょうか。

 


 多くの規約では「理事長は、管理組合を代表し、業務を統括する」と規定されているので、管理組合が業者と契約をする場合には管理組合の理事長名で署名や捺印をすることになります。

ところで、理事長には管理組合を代表して、業務を統括する権限がありますが、その裏返しとして、適切に業務を執行する義務があります。

 即ち、理事会や総会で決議されたものについて理事長は適切に執行する義務があることになります。本件では、決議の内容にも手続にも問題がないと考えられるので、理事長の対応は、不適切です。

これにより、管理組合に損害が発生すれば理事長は賠償義務を負うことになるでしょう。

比較的穏便な解決策としては、理事長を説得して、理事長ないし理事を辞任してもらうことだと思います。辞任はいつでもできますし、理事会や総会の承認も不要です。辞任後新たな理事長を選任すれば良いことになります。

理事長が自発的に辞任しない場合は、管理規約に「理事長は理事会で理事の互選により、選任する」という規定があれば理事長の解任は理事会でできます。

 理事長を解任して(これにより普通の理事になります)、他の理事から理事長を選任して、その理事長が業者との契約を締結すれば良いことになります。

 他方で、上記のような規約がなく、総会で理事長を選任している場合は、総会で解任する必要があります。

定時総会が近い場合はともかくとして、急ぐ場合はそのための臨時総会を開催する必要があります。

また、通常は規約で総会の招集権者は理事長になっていることが多いと思いますが、自ら解任されると分かっている理事長が総会の招集を意図的に無視することも考えられます。その場合は組合員の(頭数及び議決権の)5分の1以上で総会を招集することができます。

 本件の理事長の対応は法令に違反する不適切な行為ですから、個々の組合員が裁判所に解任請求をすることも可能です(区分所有法25条2項)。

 また、理事長が自分の意思に反することを理由に理事会等にも出てこないような対応で職務をボイコットするような事態が生じている場合に規約に中に「理事長に事故があり、職務を行えないときは副理事長が職務を代理する」と言ったような規定があれば、理事長が事故により、職務を行えないときと同視して、副理事長が管理組合を代表して、契約を締結できる場合もあると考えます。

回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・石川 貴康
(2019年1月号掲載)