マンションに百年住む (5) マンションは隠れた格差社会

マンションは隠れた格差社会

エレベーターに最上階と下階の人が乗り合わせたとする。下階の人は、「アッ、こんな人が一番上に住んでいるんだ」と思うし、最上階の人はなんとなく余裕の様子。タワーマンションなどでは、最上階と中間階以下では二倍以上の価格差があるのも珍しくないから、これは自然の成り行きである。他にもマンションには様々な格差が潜んでいる。このところは、新築10年余りで、当初の半値で中古売買される例もあり、元から住んでいる者は頭にきて、「俺たちは倍の値段で買ったんだッ」と威張りたくなる。日当たり抜群、冬でも暖房いらずの住戸があれば、西日がわずかしか差さない住戸もある。

ともあれ、マンションの中は格差だらけである。かように多種多様な格差を持ちながら、管理組合の運営は平等な民主主義を建前としている。こんな矛盾した構造を先天的にもったマンションで、良好なコミュニティをつくるのにはどうしたらよいのか。

今どきのマンションは、かつての団地型マンションと違って、年収も考え方も違う人たちが混住しているのだから、継続した親睦など期待するのは難しい。とするなら、格差を仮想として、挨拶でかわすのが一番の手である。

ヨーロッパのホテルで見知らぬ人とエレベーターに乗合わすと、よく笑顔で会釈が交わされる。あれは、他民族で、得体の知れない相手から自分を守るために作り上げた習慣に違いない。ならば、マンションでも、まず、挨拶を交わす習慣が定着したら、お互い住み心地が良くなる。防犯上も、たいへん効果的である。

もっとも、大方のオジサンは、日ごろ、仕事で下げたくもない頭をペコペコしているせいか、日常の挨拶が苦手である。しかし、ヘッドホンの若者でも、「おはよッ」と声を掛けると、意外に挨拶が返ってくるから試してみると良い。だからといって、若い女性から笑顔が返ってきも、くれぐれも誤解のないように。(満田 翔)

(集合住宅管理新聞「アメニティ」2009年9月号掲載)