助成申請は今年度内の耐震設計着手が条件 東京都内マンションの改修事例にみる耐震助成制度:2018年5月号掲載

国や自治体では旧耐震建築物の耐震化を進めようと様々な制度を整え、推進している。その一つが、耐震化に必要な費用を助成する制度。そこで今月は、助成制度を活用して耐震改修を行った東京都内のマンションの事例から、助成制度を見てみる。

緊急輸送道路沿道建築物で耐震改修を行ったAマンション

緊急輸送道路とは、大規模災害発生後、救助活動や救援物資の輸送を行う上で重要な役割を果たす道路で、自治体が指定する。この道路が、沿道建築物の倒壊で塞がれれば、円滑な救助活動等を阻害することから、倒壊すれば道路幅員の半分を超える沿道の旧耐震建築物は、早急な耐震化が求められている。

新宿区のAマンション(1977年築、42戸)は、特定緊急輸送道路沿道建築物のため、耐震診断が義務付けられており、診断を行った結果、耐震性が不足していることが判明した。そこで同マンション管理組合は、耐震改修を検討するが、合意形成に大きく寄与したのは区の助成金である。

新宿区の特定緊急輸送道路沿道建築物が耐震改修工事を行う時には、手厚い助成が行われている(別表1参照)。

また、この助成以外にも、国が耐震診断義務付けの建築物が、補強設計、耐震改修等を行う際に要する費用の一部を補助する「耐震対策緊急促進事業補助金」から、事業費の15分の1の補助を受けた。結果、総工事費の9割以上の助成を受けて、耐震改修工事が行われた。

特定緊急輸送道路沿道建築物では無いが耐震改修を行ったBマンション

一方、江戸川区のBマンション(1980年築、112戸)は、緊急輸送道路沿道建築物では無いが、耐震改修を行った。
江戸川区では、特定緊急輸送道路沿道建築物でない場合の助成は、改修工事費の2分の1である。しかし、同区は「住宅耐震化緊急促進アクションプログラム」として、区内全域を対象に耐震化の推進を図っており、その一環として、耐震改修工事費助成を戸当たり30万円増額する措置をとっていた。

結果、耐震性不足から耐震改修工事を行った同マンションでは、工事費用のうち、約7割が助成で賄えた。この30万円の増額措置が、同マンション内での合意形成に大きく寄与したという。

合意形成には理事会等のリーダーシップが必要

二つの事例から、耐震改修工事を行うため、4分の3以上の合意形成を得るには、「助成が大きな要因になったことは間違いないが、理事会等が果たす役割も大きい。」と耐震改修工事に関わる業者は語る。

耐震改修自体は、自分の住んでいるマンションの安全性が向上し、大きな負担を伴わないのであれば、合意は得られやすいかもしれない。

しかし、建物の補強を行うと、特定住戸に負担が偏ることが多い(例・耐震壁増し打ちのため、専有部分が狭くなる。ベランダに外付けフレームを付けるため、日当たりが悪くなる等)。負担を被る住戸の所有者が、建物の安全性を高めるためとはいえ、賛成の意思を表明するのが憚られるのも無理はない。また、予定に無い出費に抵抗を感じる人もいる。

これらの人達の抵抗感を和らげるため、理事会が折衷案を掲げ、リーダーシップを発揮し、粘り強く説得に当たったことも合意形成には必要なことであった。

先のAマンションでは、耐震改修検討時、修繕積立金では費用が足りなかったが、不足する改修費用を補い、かつ耐震改修の機運を高めるため、耐震改修のための積み立てを複数年行ったほか、耐震改修工事に合わせ、全戸のサッシ交換も行い、住環境の向上も併せて行っている。

Bマンションでは、足場が必要となる耐震改修工事に合わせ、大規模修繕工事も行い、将来の負担を軽減できる見通しができたことも、合意形成の要因であった。

写真上 耐震壁増し打ち 写真下 外付けフレーム設置のように、一部居住者に負担が偏る場合、理事会等のリーダーシップがカギとなる

今年度の改修工事助成は年度中の補強設計着手が条件

これらの助成制度は、自治体により差があるため、詳細はお住いの自治体に問い合わせる必要がある。

助成を受けるには、今年度中(2019年3月31日)に、耐震補強設計に着手していることを条件にしている自治体が多く、年度内に補強設計に着手するには、専門業者が申請書類等を作成する時間も考慮すると、今年の秋には管理組合内の合意形成が終わっている必要がある。
来年度以降の助成制度がどうなるかは現段階では全く不明だが、残された時間は少ないかもしれない。

(2018年5月号掲載)