「熊本地震」から学ぶ  マンションで地震への備えに必要なこと:2018年1月号掲載

2016年4月に熊本県を襲った地震について、現地の被害調査結果を踏まえたマンションの地震への備えや、復旧工事の事例等を紹介する、「平成28(2016年)熊本地震に学ぶ」(一般社団法人マンションリフォーム推進協議会主催)が2017年12月1日に開催された。今月は、同講座で、熊本地震がマンションにもたらした被害、被害からの復旧について取り上げた講座を紹介する。

被害マンションの特徴

第一部は、耐震総合安全機構の安達和男理事長が「熊本地震から学ぶマンションの地震への備え」と題し、講演を行った。

■整形性の悪いマンション
建物の形や構造部材のバランスの良し悪しを「整形性」と言い、整形性が良ければ地震被害を受けるリスクが少なく、悪ければリスクが高いと評価される。
写真1の3つのマンション旧耐震基準)は、ほぼ同時期に、同じ施主、設計、施工により建設されたが、建物形状の違いにより、別表通りの被害の差が表れた。

熊本市内のマンション(地図データ Google、ZENRINN)

■ピロティのあるマンション
併せて、前出のマンションのうち、写真1中の②のマンションは、一階のピロティが崩壊した。新耐震基準のマンションでも、ピロティに被害が広範囲にわたり発生した。

被害を受けやすい箇所

マンションで地震の被害を受けやすい箇所は、廊下側・バルコニー側の非構造壁。室内から壁越しに外が見える等の損傷を受けた。また、非構造壁の損傷でドア枠が変形し、開閉できない玄関ドアが多数発生。避難困難となり、避難後も、ドアを閉められず、防犯性の問題が生じるなど、様々な生活支障が生じた。
これらの被害は、マンション居住者の復旧意欲を大いに削ぐが、マンションは直して住み続けられると提言した。

復旧は不安の払拭と希望の共有から

第二部では、REPCO技術委員の山崎史照氏が「熊本地震におけるマンションの復旧工事事例」と題し、講演を行った。

住民が損傷の激しいマンションを見ると、「もう、このマンションには住めない」と思ってしまう。しかし、損傷の多くは構造に問題のない非構造壁に発生しており、直せば再び住めるのだが、震災直後は精神的ショックから、今後どうするか管理組合としての検討や意思の確認ができない状況に陥りがちとなる。

そこで、専門家から正確な知識と過去の復旧事例等を情報収集し、管理組合内で共有することで、「もう住めない」という不安を払拭し、復旧へ向けての希望を醸成することが必要となる。

復旧工事費の捻出

しかし、次に立ちはだかるのが復旧工事費。工事費は修繕積立金から支払うことが一般的だが、長期修繕計画で予定されていない工事のため、修繕積立金だけでは賄いきれない。

そこで、例えば前回の大規模修繕工事から10年近く経過しているマンションでは、足場設置費用節約のため、同時に大規模修繕工事も行うなど、コストカットにつなげる工夫もしながら借入額等を算出し、その他、利用できる助成金等について、関係省庁や自治体と協議し、工事費用を捻出した。

なお、非構造壁だけの工事の場合、概ね200万円/戸(税別)程度の費用負担になったという。

日頃のコミュニティ形成が重要

このように、マンションの復旧に向けては、管理組合内での復旧に向けた希望と情報の共有及び復旧費用の捻出という困難な課題を乗り越えることが必要となる。この時、管理組合内の迅速な意思決定に重要なのが日頃のコミュニティ形成で、震災等の非常事態にどう対応するか、普段から意識を共有することが重要ということであった。

(2018年1月号掲載)