間に合うか 国の目標2025年までの旧耐震建築物の解消 2013年改正耐震改修促進法について:2017年11月号掲載

 9月号では「建築物の耐震性」を取り上げ、1981年が耐震性を判断する基準となることをお伝えした。では、国の耐震化の現状はどうなっているのか、2013年に改正された「耐震改修促進法」から、耐震化促進のための施策を確認する。

達成遅れる政府の耐震化目標

 政府の耐震化目標は、「地震防災戦略」(2005年)では、住宅・建築物の耐震化目標を2015年までに90%と設定し、さらに住宅については、新成長戦略(2010年)、住生活基本計画(2011年)、日本再生戦略(2012年)で、2020年までに95%、2025年には旧耐震建築物は概ね解消することが目標とされている。

 しかし、2008年時点の耐震化率は、住宅が約79%で、同年に達成すべき数値よりマイナス約2%と、目標達成には、一層耐震化を促進する必要があった。

巨大地震の想定被害の拡大

 また、2011年の東日本大震災を踏まえ、南海トラフ地震や首都直下地震の被害想定の見直しが行われ、従来よりはるかに大きな被害が想定(南海トラフ地震死者数約33万人・全壊棟数約250万棟、首都直下地震、冬・深夜発生時最大死者数約2万3千人・全壊、焼失棟数約61万棟)されたことから、建築物の耐震化を着実に進めるため、2013年に耐震改修促進法が改正された。

1 耐震化促進のための規制強化

■緊急輸送道路沿道建築物の耐震診断義務化・耐震診断結果の公表

 同法改正により、各自治体が耐震改修促進計画で指定する緊急輸送道路沿道の、旧耐震基準建築物所有者は、耐震診断を行い、結果を報告する義務が課され、耐震診断の結果は、地方自治体が公表することとなった。
 義務付けの対象となるのは、倒壊した場合、道路の半分を塞ぎ、円滑な避難等を防ぐおそれのある建築物(図1参照)。

図1 耐震診断義務のある建築物

■全ての建築物の耐震化が努力義務に

 同法改正前は、マンションを含む住宅や小規模な建築物は、耐震化の努力義務は無かったが、巨大地震の被害想定が見直された結果、全ての建築物の耐震化を促すため、旧耐震建築物所有者に、耐震診断と必要に応じた耐震改修の努力義務が課された。

2 耐震化促進のための措置

■容積率・建ぺい率の特例

 耐震改修工事で増築となっても、既に容積率・建ぺい率を使い切っていれば改修できないが、耐震改修のためであれば、容積率・建ぺい率を緩和する特例が設けられた。

■耐震性の表示制度創設

 耐震性の有無を建築物の外観から判断することは困難なため、耐震性の有無を認識できるよう、耐震性があることを建物利用者が見やすい場所や広告に表示できる制度(図2)が創設された。

図2 耐震性の表示制度の認定証

■マンションの耐震改修工事の決議要件緩和

 マンションでは「形状又は効用の著しい変更を伴う工事」は、決議要件が区分所有者及び議決権の4分の3以上とされており、耐震改修工事には、その対象となる工事もある。しかし、耐震改修の認定を地方自治体から受けた工事の場合、決議要件が過半数となった。

被害最小化のために建築物の耐震化を

 政府は、建築物の耐震化等を促進することで、南海トラフ地震では人的被害を概ね8割、建物被害を概ね5割減らし、首都直下地震でも、人的被害を約1500人、建物被害を約2万7千棟まで減らせるとしている。
被害が最小限になるよう、早急に建築物の耐震化を進めることが求められている。

(2017年11月号掲載)