防災月間特集 急がれる旧耐震マンションの耐震化:2017年9月号掲載

 毎年のように日本のどこかで起きている地震。政府の「地震調査研究推進本部」が今年4月に発表した「全国地震動予測地図」でも、首都直下地震・南海トラフ地震が予想される関東以西の太平洋沿岸地域では、30年以内に震度6弱以上の地震が高確率で起きると予測されている。このように地震から逃れることが困難な我が国では、政府も含め、大地震は来るものと言う認識で備える事が重要で、特に建築物の耐震性を高めることは喫緊の課題となっており、マンションもその例外ではない。

1981年6月が耐震性判断の目安

 耐震性のある建築物とは、「震度6強から7に達する大規模地震で倒壊・崩壊しないこと」「震度5強程度の中規模地震ではほとんど損傷しないこと」とされている。

 耐震性の有無を判断する基準は、マンションが建てられた時期が大きな目安となる。その時期は、1981年6月施行の新耐震基準か、それ以前の旧耐震基準のどちらで、建築確認を受けたかによる。

 1995年に発生した阪神・淡路大震災では、住宅・建築物の倒壊により大きな被害が見られたが、旧耐震建築物に大きな被害が発生したことから、新耐震基準の有効性が確認されている。

 全国約633万戸(2016年末現在)のマンションのうち、1981年6月以前に、旧耐震基準で建築確認を受けた約104万戸のマンションは、耐震性が劣っている可能性がある。それに加え、表1のような、構造上バランスの悪いマンションは、特に耐震性に注意が必要とされている。

建物構造別の耐震性(旧耐震基準の場合)

 中層(5階以下)の建築物に多い、壁式構造やプレキャストコンクリート工法(PC工法)と呼ばれるマンションは、壁の面積が多く、旧耐震基準の建築物であっても、阪神・淡路大震災で大きな被害を受けたものは少なかった。

 RCラーメン構造(柱と梁で建物を支える構造)で、旧耐震基準の建物の中でも1971年以前のマンションは、耐力不足から柱がせん断破壊(柱中間部にx型の大きなひび割れが生じる)するおそれがある。特に、高層マンションほどその可能性が高い。また、旧耐震基準のマンションの中でも低層部がSRC造(=鉄骨・鉄筋造)で高層部がRC造(=鉄筋コンクリート造)のラーメン構造は、中間の特定階のみが層崩壊(層全体が圧壊)するおそれがある。

 旧耐震基準の鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)・ラーメン構造では、耐力不足による柱のせん断破壊、中間の特定階の層崩壊等に加え、柱と基礎を結合しているアンカーボルトの抜けや破断、鉄骨継手の破断等による柱の破壊が生じるおそれがある。

新耐震基準でも被害はでる

 では新耐震基準で建てられた建築物なら安全と言えるのだろうか。

 昨年起きた熊本地震では、新耐震基準の建築物でも、1階ピロティ部分等に広範な被害が発生している。新耐震基準は、建物が「倒壊・崩壊」しない最低限の基準である。また、新耐震基準でも、施工不良や定期的な修繕工事を怠るなど、管理状況が悪ければ、期待される耐震性を発揮できないこともある。

耐震化を要する設備等

 マンションの耐震性能については、建物が崩壊しない以外に、安全に避難するための経路の確保や、マンションの住生活機能を保持するための設備の耐震化も重要である。耐震化が必要な設備等を表2にまとめた。これらの設備等についても耐震化が求められる。

早急に「耐震診断」で耐震性の確認を

 自分の住むマンションが、耐震性を満たしていているのか確認する方法には、専門家による耐震診断がある。

 耐震診断を専門家に依頼する時のポイントは、診断結果から、適切な耐震補強案と補強案に対する概算工事費を提示できる業者を選ぶ事。耐震診断を行う業者は多くあるが、診断後の補強案と概算工事費が提示されなければ、管理組合もその先どうするか、判断できなくなる。

 いつ起きてもおかしくない大地震から命を守るため、特に旧耐震基準のマンションに於いては、早急に耐震診断を受けることが望まれる。

(2017年9月号掲載)