どこまで進んだ 緊急輸送道路沿道建築物の耐震化状況 横浜市・さいたま市・千葉市:2018年9月号掲載

必ず起こると言われる首都直下地震や南海トラフ地震。これらの大規模災害に備え、国を挙げた取り組みが続いている。なかでも、大規模災害発生後、速やかな救助活動や支援物資の輸送に欠かせない、緊急輸送道路沿道建築物の耐震化は早急に取り組むべき課題である。そこで、今月は首都圏主要都市のうち、政令指定都市の横浜市、さいたま市、千葉市の緊急輸送道路沿道建築物の耐震化状況をまとめた。

耐震化目標2020年までに95%~100%

各市の緊急輸送道路沿道建築物の現況については、別表にまとめた。なお、表は各市の「耐震改修促進計画」上の数字をまとめたものである。

各計画では、横浜市、さいたま市は2020年までに耐震化率95%、千葉市は、通行障害建築物は「災害時の影響が大きい」として、100%を目標としている。計画時の耐震化率は、横浜市約89%、さいたま市約86%、千葉市約94%となっている。

各市の沿道建築物の現況と耐震化率向上の施策

■横浜市

耐震化目標に対し、各市の現況を見ると、横浜市は、耐震診断義務付け対象道路沿道に約470棟の建築物があり、そのほか緊急輸送道路を補完する災害時重要拠点アクセス路沿道には約200棟の旧耐震建築物、それ以外の補助対象道路沿道には約800棟の旧耐震建築物がある。

これらの路線の中でも、特に耐震診断義務付けの約470棟の建物所有者に「耐震トータルサポート事業」を展開している。

同事業では、耐震診断を受け、耐震性不足が判明した建築物所有者のもとに、これまでの市職員の訪問に加え、専門的な知識や経験を持つ建築士や弁護士等を「耐震サポーター」として派遣し、建築物耐震化に向けて設計から工事まで、建物所有者のさまざまな課題・悩みの解決をサポートする。サポーターの派遣にかかる費用は無料。

「耐震サポーター等の制度を活用することで、建物耐震化を考えるきっかけにして欲しい」と市担当者。また、耐震化率向上の進捗状況については「ある程度は把握しているが、まだ公表できる段階ではない」ということであった。

■さいたま市

さいたま市は、県計画指定路線沿道で1652棟(うち、県指定重要路線で507棟)、市指定道路沿道で2966棟の建築物がある。特に、重要路線の507棟の中で、非木造3階以上の98棟の耐震化を市では優先して進めているという。

これらの建築物所有者のもとに、直接市職員が個別訪問や電話を掛けるなどして、耐震診断等を働きかけている。

さらにこれら重要路線については、耐震診断費用のうち、上限はあるが費用相当額を補助。また、耐震改修工事の助成金を拡充(上限1500万円↓上限4500万円)するなどして、優先的に耐震化を進めている。

結果、今年1月時点で、98棟のうち、60棟が耐震性不足が判明するなどの成果が上がっているという。

■千葉市

千葉市は、沿道建築物総数418棟のうち、旧耐震建築物は58棟、うち耐震性があると推定できるのが34棟のため、耐震性不足の恐れのある建築物は24棟となる。

これらの建築物所有者に対し、千葉市では文書や市ホームページの内容を充実させるなどの啓発を行い、耐震化率の向上を図っている。現在のところ、「進捗状況は調査中」とのことであったが、啓発を続けていきたいということである。

改修費の補助率アップが課題

各市の担当者に、耐震化を阻む要因を聞いたところ、建築物が貸しビルの場合は、テナント間の意見調整も要因だが、改修費用が大きな課題になっている。各市の耐震改修の補助率はいずれも3分の2。補助率アップが課題であることは、どの市でも認識しているが、財政事情等もあり、具体化させる動きはまだないという。

(2018年9月号掲載)