42.管理、立場変われば…

 報道あるいは書店やネットでどうも、「マンション」という言葉を目にすると、反応せずにはいられない変な癖が身についてしまった。つい最近、鎌野邦樹日本マンション学会前会長(早稲田大学法科大学院教授)と、さる研究会で話した際(リモート)、話題に上った本なのだが、「竹田君はもう読んだと思うが、南野苑生さんという方が書いた『マンション管理員オロオロ日記』というのが実に面白い」と先生自らが、珍しく絶賛した。そのとき筆者は、まだ読んでいない。筆者としては、文化人類学者の小川さやか氏が著した「チョンキンマンション(重慶大厦)のボスは知っている」(春秋社)が一押しだと、お話ししただろうか。こんなことがあった。

 さて鎌野先生絶賛の著書は、マンション管理の中枢は理事会であろう中で、その窓口こそ、管理員が行っている(民間マンション)。現UR系は、管理主任あるいは事務局長と称しているが、このいわゆる零戦部隊の「生の声」が本書だ。

 筆者がまだ駆け出しの記者だった頃、東京、千葉、埼玉、神奈川にある住宅団地の管理主任さんたちの間では、自主的な勉強会があったりして、地域を超えた交流の場があった。また近隣の主任さんたちが、決まった時間に決まったレストランで昼食しつつ、意見交換し、話し合いの場を設けているといったケースもあった。

 筆者としては、そこが取材の場であったり(傾向と対策)、ゲストであったりしたわけだが、手探りの管理というのが実感で、主任さんと呼ばれている人達の現場に対する取組みを知る機会でもあった。

 時には、理事会あるいは理事長が、自分の書いた記事をどう評価しているかなど、個別具体の評価を主任さん達から間接的に聞く機会であり、喜びも悲しみも…というところである。今から思えば、筆者は兎も角として筆者が在籍した媒体への伝統的な信頼があったからこそ、経験できた事なのかもしれない。

 こういった中で、暗黙の了解事項のある事に気付いた。筆者も新聞人、ニュースは欲しい。でも、そこで話されていることをそのまま記事にはできないのである。もし筆者がそこでの話を書けば、彼らの中には仕事を失う人も出てくるから。

 本書の最大の魅力はここだ。管理員さん達の生の声を聞くことができる。特に昨今、いろんなマンションで増加の一途をたどるのが、クレーマーの出現である。朝一番に管理事務所に現れ、もしくは電話で、それが夜分にまで及ぶ。返事の仕方が悪い、口の利き方が良くない、態度が悪い等々クレームの内容を超えて吠えられるというものだ。

 この点は、取材に限らず、マンションの法廷闘争、判決にも色濃く反映されてくる。以前ならば、この点は全く問題にならなかったのである。住み込み式の民間のマンションの管理員、いわゆる自主管理を採用する住宅団地にあっては、24時間、クレーマー・モンスターの出現に危惧しなければならない事になってしまう。

 はてさて、管理組合を担う面々にとっては、本書には耳の痛い話もあろうが、これはこれで、声なき声の象徴なのかも知れぬ。まずは謙虚に聞き耳を立ててみようか。四六判203頁。4章構成。中でも「小間使い」、「水漏れ」、「クレーマー」、「私物化」、「騒音トラブル」、「防犯カメラ」は絶品かも。

「マンション管理員オロオロ日記」南野苑生著 三五館シンシャ発行 1430円(税込)

明治学院大学法学部兼任講師・本紙客員編集委員 竹田 智志

集合住宅管理新聞「アメニティ」2021年10月号掲載