35.区分所有法の変遷①

 マンションの肖像を語る際、是非とも区分所有法の変遷に触れておかなければならない。

 昨年末に、筆者の師の一人である丸山英氣千葉大学名誉教授(82)による「区分所有法」(信山社)が出版された。筆者と同書の関わりの中で、区分所有法の変遷を手探りながら探ってみようと思う。マンション建替え事例(成功例)の紹介中だが急遽、テーマを変えて報告する。

 同書は、わが国初の区分所有法を“核”としたマンション法の体系書であり550頁を超える大著である。「初稿」から「念校」まで実に1年以上の時間をかけて著述された。先生ご自身の構想の時を含めれば、相当の時間が注ぎ込まれている。しかも1冊6800円だから、決して安くはない。

 まずは同書の構成だが、「総論」、「各論」の二部構成で、総論は、区分所有と三位一体論的関係、二つのマンション法、建替え及び被災法との連関を述べる。続く各論では、区分所有の目的、管理組合、区分所有者の権利義務、債権者の保護、共用部分、敷地利用権、管理者、規約及び集会、法人、義務違反者に対する措置、復旧及び建替え、団地というようにほぼ法律(区分所有法)に沿った流れである。

 区分所有法そのものの歴史といえば、本格化したのは戦後というのが、国際的にも一般的ではあるのだが(既に当シリーズでも紹介)、旧民法による208条は別として、先生は昭和37年区分所有法下から、この法律の研究を進められてきた。同法の変遷を知るには、もはや先生の著作に頼る以外にない。

 さて時々、筆者らの前で故郷の思い出話をなさることがある。そこでは「松本」(信州)と「マインツ」(ドイツ)が登場する。ドイツ語は高校時代から学び、やがてドイツに留学。ドイツ法を学ばれた。ご存知のように、わが国における民法、区分所有法はドイツ法を範として展開を重ねる。

 先生の著作は沢山ある。なかでも筆者が挙げるとすれば「区分所有建物の法律問題」(三省堂80年)、「区分所有法の理論と動態」(三省堂85年)が区分所有法をテーマとした初期の著述である。筆者の勝手な直感ながら、なかでも丸山(区分所有)法学のスタートは、正に「動態」ではなかったかと想像している。「法律問題」もさることながら、「動態」は83(昭58)年法を、ドイツ法と照らして見つめ直している。これは他者にできることではない。

 その後約半世紀を経て、ようやく登場したのが本書である。実は先生の古希記念座談会「丸山法学の軌跡を語る」(2009年)の折、創価大法科大学院の藤井俊二先生が「是非、体系書を」と勧めていた。するとここには、「動態」以降の幅広い蓄積が「密」なのではと想像されてくる。

 まずは総論部分では特に、区分所有権の三位一体論の展開につき、頁を割いて説明がなされる。筆者としても、区分所有権そのものは、専有部分に対する所有権と共用部分に対する持分権(共有権)、構成員権と呼ばれる、いわゆる社員権のような権利で構成されているのだろう事について異論などない。これに尽きるのだろうと思っている。

 問題は、区分所有の改正を行うたびに、この構成員権なるものが少しづつ変容しているのではないかという指摘、着眼である。それは管理費等の徴収、共用部分の変更、管理規約の変更、義務違反者に対する措置、建替え決議、そして敷地売却といったマンションの自死の場面で顕著に姿を表すのである。

 さらに、区分所有という制度の側面からすると、いわゆる「二つのマンション法」の所在があるとするのである。私法としての「区分所有」と行政法による「マンション関連立法」がそれだ。筆者からすると、「法」と「規約」(標準規約)の齟齬も含まれてくるように思われるが、きっと読者の皆さんも「靄(もや)」が立ち込めたような感覚であろう。

 区分所有法は法務省の管轄、他方、関連立法、規約は、建設省、国土交通省の管轄である。縦割りの所為かもなんて聞こえるかもしれないが以外と厄介で根深い。さて、次回は、同書を含めて区分所有法の変遷を述べてみたい。(つづく)

明治学院大学法学部兼任講師・本紙客員編集委員 竹田 智志

(集合住宅管理新聞「アメニティ」2021年3月号掲載)