23.リビルディング・ムーヴメント③

 マンション建替え第一号、宇田川住宅団地(渋谷区、56年入居)については、その詳細を先回までに紹介したが、シンドロームはその後の展開を後からこじつけたというわけである。さて、その後についてだが、余りのショックの強さによって、すぐさま雨後のタケノコのように建替え実例が、あちこちで現れた訳ではない。

 首都圏だと次例となるのが、シャンポール三田(同潤会アパート:港区・28年入居、68戸、隣接地の開発と併せ建替え)を除くと、単独建替え事例はフラッツ景丘(公社分譲:渋谷区・53年入居、24戸)。だとすると実に丸8年間の開きがある。余りのショックの大きさに浸透するにも時間を要したのであろうか。

 首都圏における初期の建替え実例(20余事例)は、ほぼ任意・等価交換方式を採用。土地資産依存による、いわゆる土地本位制による建替えが当初の姿だったということになる。時期的にも初動期に83年(昭58)法62条があった訳ではないので、民法上の共有法理(法251条)を適用し建替えられた。

 共有物の変更は全員一致によるとされる。全員一致という途方もない坂道を登りきらないと、天から舞い降りてくるものはない。新しい建物、設備、これを超えたご褒美とは何だったのだろか。事例を顧みつつ散策してみよう。①から⑳は竣工順を示し、続いて旧名称、そして等価交換率(旧床面積の平均と無償で取得できた新床面積の割合)、従前専有床面積の平均値→従後の平均値、使用容積率を見る。(※9番目の竣工順となるセトル中之郷は事業手法が異なるために除外)。

 ①宇田川(139.1%)44→64㎡、499%、②景丘(178%)41→73㎡、319%、③三田アパート(不明)、④上目黒(191.4%)35→67㎡、148%、⑤柏木(不明)使用容積140.4%、⑥東中野(136.3%)44→60㎡、196%、⑦大森H(160%)52→82㎡、199%、⑧高田町M(122.7%)44.2→54㎡、198.2%、⑨L相模原(202.8%)35→71㎡、199%、⑩清風苑125.9%(81→102㎡、224.5%)。

 ⑪仙台坂Aと、⑫面影橋は詳細不明。⑬代々木G(204.5%)44→90㎡、149%、⑭羽沢(152%)48.1→73.2㎡、149%、⑮用賀2(211.7%)47→100㎡、124.7%、⑯若葉(140%)48→67.2㎡、199.9%、⑰材木座(161.8%)35.4→57.3㎡、168.6%、⑱小山(151%)45→68㎡、199%、⑲豊川町(266.3%)44.2→117.9㎡、296%、⑳千歳桜丘(191.6%)42.1→80.7㎡、199%となる。

 ほぼ全てが、従前の容積率が40から70%ぐらい。これが200から400%使用可能として建替えを実現。無償で手に入れられる、専有床面積は、従来と比較し1.2倍から2.7倍ということになる。ではこれは「濡れ手で粟」ということか。筆者からすると、全員一致というコンセンサスの軌跡に現在進行形で接してきた経験からすると、この実現こそ奇跡だと思われてならない。(つづく)

2020年3月号掲載