8.~これまでの30年、これからの30年~その8

明治学院大学法学部兼任講師・本紙客員編集委員:竹田智志

83年法ショック

83年区分所有法の登場は、若干混乱していたマンション管理に、些かの衝撃を与えたのではなかろうか。単棟型も団地型も包括して一本の法律が、マンション管理の土台を提供した。
この法律は、言い古されているのだろうが、「多数決の原理」を前提に種々のメニューを用意し区分所有者が議論の末、管理を遂行する、その枠組みを提供した。そこには、決議の内容に伴って階段(ハードル)がある。容易に決議できるものとそうでないものを具体化したのである。
また、義務違反に対する「村八分」(これは、筆者の友人であるジャ-ナリストがいつも云う口癖)も導入。当時は、脅しであろう条文が、今や当たり前のように法廷で繰り広げられていることからすると、先見性だろうか。
そして、忘れてならないのは、「建替え」の規定の導入だろう。所有の目的である建物を超えて、次なる建物の構築までをも射程にする。特別法とはいえ、民法からすれば、異例中の異例。smartだとした側面からすると、管理面は単棟型も団地型も包括し、洗練された規定であるが、それだけに留まらず今後迫りつつある時代の要請に、答えているような形での立法だったと見てとれる。
手元にある資料を見てみよう。95年に英国の出版社から発行された書籍だが、恐らくは「知る人ぞ知る」文献である。正式の名称は「インターナショナル エンサイクロペディア オブ コ―ペラティブ ロー アパートメント オーナーシップ」(マルチナス・ニホフ・パプリシャーズ)。ステレンボッシュ大学(南ア)のヴァンダー・メルベ教授の編集によるものだ。
若干の例外はあるのだが、区分所有制度は第二次世界大戦後、世界各国で本格的に普及する(既に紹介済み)。歴史的には新しい法律だ。当然に、ヨーロッパ諸国が先進的で、続いてアメリカ大陸、そして日本、オーストラリア、ニュージーランドといったところに根付く。
ところが、決議にハードルを設け、義務違反者にオミットを加え、新たに建物を建て替えることができるとした、世界的にも極々稀な新制度を備えた83年法が、この本では紹介すらされていない。日本法の紹介は、ヨーロッパ諸国と類似する62年法であって、かの画期的でスマートな83年法ではなかった(ヨーロッパ諸国における区分所有規定は、団体の意思決定メカニズムに当然のことながら多数決の原理を導入しているが、わが国の民法における「共有法理」と同じで、つまり、過半数決議か全員一致の二通りしかない)。
一般管理事項は過半数、大規模修繕工事(当時)は区分所有者及び議決権の4分の3以上、建替えとなると同5分の4以上といった階段式決議手法、建替え制度等世界に類を見ない、衝撃的な制度は全て、蚊帳の外ということか。ところで、この本を読んだ約20年前、驚いてしまったのは、83年法とほぼ瓜二つの法規定が他国の立法として紹介されていた。なんと、お隣の国、韓国における区分所有法、集合住宅建設法(84年)がそれである。法の継受は、確かにいろいろある。だがこれは、管理組合法人の規定を除いて、そっくりそのまま。法もいろいろ。継受もいろいろということだろうか。とはいえ、83年法は東アジアの大半の国々で生きている。(つづく)。

ここには一体いくつの管理組合があるのだろう

集合住宅管理新聞「アメニティ」435号(2018年12月)掲載