15 セーフティーネット模索

   先回までに、火災保険、管理費滞納問題を見てきた。そろそろ、マンションの財務面のセーフティーネットという観点から再構築してはと思うが如何だろうか。火災保険は当初、売主と買主の関係から、専有部分を中心とした財産権担保の保険という傾向が強い。

 でも、区分所有権という権利は、共用部分と専有部分にまたがる一体不可分の財産権だ。ここら辺で、スムーズな安心・安全モードを確立したい。火災保険の空白だけは避けたいからだ。住宅ローンの返済終了の情報と伴に保険会社と区分所有者間の新たな火災保険に移行できるシステムをつくるべきである。

 自動車保険は最近、TVコマーシャルも盛んで、オプションもかなり豊富なことは明らかだ。そこで筆者の若かった時分の思いつきで恐縮だが(もちろん何度か友人たちとは議論した)、マンション保険も自動車のようになんて思うのは些か悪乗り過ぎるだろうか。

 新車を購入したときの車両保険はどこか地震保険に通じるようだし、事故対応は迅速だし、火災保険もこうなら云うこと無しだ。地震で被災し建物が大規模滅失したら、新しいマンションなら元通りになる(車両保険)、古いマンションなら同規模の滅失でも改修の手当てがなされる。ただし、区分所有者全員が、この火災保険に加入する必要が出てくる。

 とすれば、管理費、駐車場利用料金等と火災保険は組合の財務の本丸御殿。これらの徴収は、保険会社(金融機関)が担うのはどうだろう。滞納の初期の対応は、保険会社が行い契約者である区分所有者は、金銭面での対応を金融機関と話し合いながら、豊富なバリエーションの中から選択可能になる。

 もし滞納が本格化したならば、その時点で、この情報は組合に送られ、理事会は訴訟の準備に入ることができる。管理組合は財務全体の収支の把握にのみシフト出来る筈だ。提訴と法57条以下については迅速に対応できると思う。

 次に、滞納管理費等に関する先取特権だが、区分所有者とローンを契約した金融機関が、云わば相まみえる事実は先に見た通りである。担保物権の成立からすると、その先後に関する限り、抵当権に太刀打ちできない。

 だけれども、なぜ長期滞納を行った組合員の居室が競売とはいえ、市場に出回ることができるのだろうか。専有部分は滅茶苦茶な状態に陥っているかもしれない。しかし、競落されるのである。

 それは、マンションという建物が存続しているからに他ならない。では、その存続を支えてきたのは誰だ。区分所有者の団体である。抵当権者である金融機関も、住宅ローン総額の何割かの回収になるかもしれない。ならば、滞納額全額にこの割合を乗じた金銭が管理組合にフィードバックされてもよさそうな気がする。

 純粋な法律論からすれば、大きくずれた主張だろう。とはいえ、法律論はすでに膠着状態だ。別の決着・解決を望むべきである。円滑なマンション財務の再構築に向けて区分所有者のウェーブが必要なのかもしれない。

 勿論、登記を経た抵当権に対抗するのであるから、この場合の先取特権も登記を経由している場合に限られて有効になる(つづく)。 明治学院大学法学部兼任講師・本紙客員編集委員 竹田 智志

これぞ中層住宅団地の”傑作”

2019年7月号掲載