108.前門の虎と後門の狼/住宅政策の大転換の必要性

 平成13年に実施した住宅土地統計調査結果の再集計による住宅種別世帯主年齢分布では、持家戸建、公営借家、持家長屋住宅の全世帯の半数近くが65歳以上である。これを単身世帯に限定すると65歳以上が7割前後に上昇する。中でも75歳以上の占める割合が高い。全世帯に占める単身世帯の割合は住宅種類で異なるが、もとより単身が多い民営借家と給与住宅を除けば、全ての住宅で急速に増加している。単身は親から世帯分離した若年期と、家族分解が進んだ高齢期に多いが、近年では45~65歳の中年でも急速に増えている。離婚、未婚による単独世帯が急増しているためだ。

 一般に借家から始まって最後の終末期を持家戸建で過ごすステップアップの歴史が形作られている。ただし、個々人の上がりはUR公社や公営、持家共同住宅など様々である。最近は民間アパートで生涯を終える人も少なくない。多くの人々は新築持家住宅の取得を、出来れば30歳代で済ませたい。ローンの返済時期を定年を迎える前に終わらせたいからだ。44歳を過ぎると、値段の安い中古住宅取得に向かう。既に持ち家を持っている人の買い替え、建て替えは高齢化しても可能だが、経済停滞が長く続く昨今では持ち家から持家の住み替えは次第に減少する傾向にある。20年以上前では、分譲マンションは戸建てに住み替えるまでの途中下車が多かったが、マンション水準の向上と長期不況、高齢化が重なって、終着駅化しつつあるのが昨今の状況だ。単身世帯が貯まる一方である。公営住宅、UR・公社住宅は、政府の方針で新規建設を制限している。転出世帯が少ないから、住宅難の子育て世代を受け入れる余裕はない。

 一方持家の高齢単身世帯の住宅規模は大きい。一生単身で過ごす人は数を増しているとは言え、配偶者死亡で単身化した世帯が多数派だから、中には一人では持て余すほどの規模の住宅に住み続ける人が多い。平均住宅規模は子育て期世帯よりよりはるかに大きい。いわゆる居住人数と住宅規模のミスマッチが進行しているが、これを是正する政策はない。地方では単身老人が200m2以上の戸建住宅に住み続けることは珍しくない。冬は一室暖房で廊下、台所、便所は氷の中に住むほど寒いし、雪が降れば屋根の雪下ろしが必要だ。命がけで住宅を守らなくてはならないが、年金生活では住宅の補修に十分手が回らない。年金生活が長くなるほど住宅の住みつぶしが進む。

 ところで、表題の前門の虎は少子化で20代の世帯減を指す。現段階では借り手の減少が空き家化の原因だが、世帯数減少の波が30歳代、40歳代に進行すると、家族向け借家だけでなく、小規模低水準持家ストックの空き家化をも促進し、更に新築持家住宅建設戸数は確実に減少する。後門の虎は高齢単身者の増加による突然の空き家数が増す現象を指す。家具家財を置いたまま入院した病院から自宅に帰れない場合等が増えるから、大規模住宅を含めて売らない、貸さない長期空き家住宅が増える。もちろん持ち主が死んだら戸建て空き家は処分される場合が多いが、高層住宅は外部からはその動向を確認しにくい。住宅危機を国民レベルで意識しないと解決策は出ない。国の責任が大きいのだ。(つづく)

(2017年2月号掲載)