89.エレベーター設置住宅が分譲マンションでは当たり前/未設置住宅のゆくえはどうなるか

 エレベーターがある非木造共同住宅の割合が2013年実施の住宅土地統計調査結果で公表された。都道府県別の同住宅全数では大都市圏内地域がエレベーター設置率が高く、一方人口が少ない地方県では設置率は低い。住宅の所有関係では以下のいくつかの特徴が見える。

 まず(1)持ち家非木造共同住宅では設置率は90%近くに達する。(2)借家は大都市圏内県では高いが、地方県では低い。(3)民営借家には持ち家共同住宅から借家化した住宅が混じるから大都市圏ではやや高めになるが、地方県では持ち家共同住宅の借家化比率が高くても、非木造共同住宅に占める持ち家共同住宅の割合が低いから、影響は小さいと思われる。(4)図表を割愛するが、これら非木造共同住宅のエレベーター設置率は建設年度が大きく影響する。最近建築の住宅程設置率が高くなる。昭和40~50年代に大規模団地が大量に建設された地域では持ち家であってもエレベーター設置率は低い。欄外になるが千葉県は83%、埼玉県で84.4%、神奈川県74.1%である。神奈川県は全国一設置率が低い。(5)東京都の市区町村別共同住宅のエレベーター設置率では千代田区の98%を最高にあきる野市8.9%を最低に有無の格差が激しい。区部の設置率は高く、多摩市町村部は設置率が低い。(6)建物の階数別に見ると、6階以上建物は住宅種類に関わらずほぼ100%エレベーターが設置されている。4階建て以下では全住宅の9.3%が設置するのみで、最も多い持ち家で22.5%が設置するに過ぎない。5階建てでは大きく変わる。全住宅の48.6%が設置し、住宅種別では民営借家が最も多く、67.7%に達する。持ち家55.9%、次いで公営31.8%、UR公社が14.3%、給与住宅44.8%である。公共住宅の対応の遅れが目立つが、古い階段室型アクセスがUR公社ストックで多いから、設置しても半階分の段差が残り易い。ともあれ深刻なのは持ち家共同住宅の中で少数派になった5階建て以下住宅である。1・2階は高齢者でも勢いで昇降可能としたら10戸の未設置住宅の内6戸が日常的に階段昇降で苦労する。明らかに少数派である。

 中古取得の多数派が20~30歳代の若年者が中心の時、まだ民間借家もエレベーター設置率が低い時は、市場ではそれなりの人気を保っていたが、中古取得者が中高年化し、民間借家も公共借家もエレベーター設置が当たり前化した今日では、エレベーター未設置住宅は中古市場で脱落する恐れは強い。住宅規模の相対的低水準化、立地のハンデ拡大、築年数による老朽不安にエレベーター未設置の条件が重なれば、不人気住宅化するのも当然であろう。エレベーター未設置が多数派で有れば政策課題になりやすいが、一方、多数を行政が支援するには金がかかり過ぎる。少数派であれば議員の票になりにくい。結局エレベーター設置は自己負担が原則となる。公共住宅の場合はエレベーター設置に伴う資産価値の増大分は公共に入るが、分譲マンションの場合援助分の値上がりが住宅所有者に帰属すれば、公平性の原理に合わない。そこで英国のように援助分の効果を20年と定めて設置後10年で売却した場合は半額返済とするのはどうであろう。それでも1~2階と3階以上で合意が得られるかは不確かである。ストックが負の遺産にならない工夫が必要だ。(つづく)

(2015年5月号掲載)
(松本 恭治)