71.土地の保有から利用へ転換したものの行きつく先は高層高密度不良都市と郊外の衰退か

 表は東京都の90~95年、05~10年の2時期における人口増加率上位・下位各11位までの市区町村一覧である。バブル経済崩壊後の5年間は上位11以内の大半は多摩地区の自治体で、一方05~10年では大半が区部であった。青梅市は増加率1位であったが、現在は下から3位に位置する。20年間で都市が膨張から収縮に向かったことを示す。 バブル経済時には企業が土地を買いあさったから、都心の土地は高額過ぎて庶民は否応なく郊外に押し出された。ところが、バブル経済崩壊で企業収益が悪化し始めると、次から次と土地を手放した。結果、多くの土地がマンション用地に転換した。国と自治体は都心の土地を有効利用させるべく次々容積率緩和を実施したから、超高層マンションが林立するに至った。

 土地の保有から利用を図る目的は一応達成されたが、望ましい都市像がなく、ただ高度利用を図るだけでは東京区部はいずれ高層高密度の不良都市になる恐れが強い。

 小規模地主が不動産投資をするにはワンルームマンション建設が手っ取り早い。実は都心立地の分譲マンションも単身化が激しい。高額な狭小ストックでは家族人数を減らすことで、一人当たりの広さを獲得する。地価が高い地域の分譲マンションほど、単身化・小規模世帯化の傾向が強い。都心区では単身用住宅の需要が高いから、住宅規模は縮小傾向である。単身化・狭小化は負のスパイラルを形成している。そこに、超高層が大量に供給されたら平均家族人数が上がるかと期待したが、現実は意外なほど家族規模が小さい。120m2のプランでも2LDKなど寝室数が少ない。計画上の理由から一面採光のプランが多い事、買い手に子供が少ない事等に起因している。

 現地調査するとワンルームマンションだけでなく、高層・超高層マンションの郵便ボックス、各戸玄関の表札にも氏名表示が少ない。超高層では居住世帯は階ごとに隔離されるし、同一階の戸数も限定されやすい。さらに玄関ホールを出たらすぐ公道で、居住者のための外部空間が乏しい。子供がいない世帯が多いから人間関係は希薄になる。従って自治意識が希薄でマンションでは維持管理に無関心層が増えている。都心は買い物・通勤には便利だが、無縁社会になりやすい。社会的孤立者が犯罪のターゲットにされやすいが、集合住宅は孤立者の存在を潜在化させやすい。

 問題は郊外にも及ぶ。超高層は狭い敷地に多くの住宅を詰め込む。それが雨後のタケノコの如く大量に供給されたら、人口停滞社会では郊外の土地は値下がりして当然だ。バブル期に庶民が焦って購入した郊外遠隔地の住宅が、20年後には買い手が乏しくなった。このまま続けばローンの支払いを終えた時点で、資産価値は限りなくゼロに近づく。超高層マンションも例外でない。

 人口減少社会ではなお、立地による選別が強化され、地域格差が拡大する。それでも都市の成長をコントロールし、望ましい方向に計画を修正する発想は日本にはない。建てるのも建てないのも市場に委ねているからだ。オリンピックに向けてまたまた容積率緩和がささやかれている。儲ける業者、踊らされる庶民、建設至上主義の国・自治体の図式は当分変わらない。(つづく)

(2013年11月号掲載)
(松本 恭治)