63.マンションの防犯/監視カメラ社会の功罪

 最近のマンションは玄関ドアがオートロックとなっている上、監視カメラが点いていることが多い。犯罪が起きると駅や商店街の監視カメラを警察は分析する。監視カメラの威力は結構大きい。 あるマンションでは麻薬の売人が住んだため、昼間から買人がマンション内をうろついた。そこで管理組合は監視カメラを設置して、定期的に警察官に立ち寄ってもらい映像を警察署に持ち帰ってもらうことを決めた。監視カメラが有ることを玄関の入口に掲示し、買人に見えるようにしたら、買人はマンションに近づかないから、結局売人は商売不振で自ら転居した。この間管理組合役員は売人と一言も話をしなかった。

 ヤクザの親分が2組も入居したマンションではしばしば子分同士の小競り合いが敷地内で生じていたが、監視カメラを付け、警察官が定期的に立ち寄り始めた途端に、小競り合いは敷地内では全く起きなくなった。それどころか、ペットを飼っている親分はペットと散歩する時には糞を拾う姿が映っていたから、カメラはマナーも良くするようだ。  ところが、あるマンションでは、居住者であるヤクザの組長が管理組合の許可を取らず、勝手に監視カメラを多数設置した。取り付けた理由は、抗争相手が組長宅を下見に来るのを嫌ったことによる。従ってこちらは警察官が立ち寄ることはない。ついでながら、組長宅がある階にエレベーターは止まらない。ベランダの床にある避難孔を住民は逃げ出し孔と呼ぶ。

 ところで、玄関のオートロックを含めて、防犯は近年では商品価値を高める。大規模高層団地では死角が多いから、監視カメラを設置した場合は、数も尋常でない。監視センターを24時間体制で詰めている職員を見ると、わざわざ死角が多く、近隣の目を封じた建物を計画しておいてその欠陥を補完する仕組みが商品化するから矛盾にも見える。近隣相互の目が行きとどく事こそ自然監視機能だが、同時に近隣の人間関係を発展させる機会になる。機械の代替はその機会をも失わせていることに注意したい。  ニュータウンになると、昼間は公園の中で暮らしているようで、気持ちがいいが、夜になると歩車道分離の歩道は実に怖い空間になる。樹木が多いから、街灯の光は遠くに届かない。街灯と街灯の間は暗闇になる。住棟から離れているから助けを求めても住宅には届かない。車道脇の歩道は寂びし過ぎて歩く人はいない。監視カメラを設置したくても死角が多すぎる。通勤通学する娘を駅やバス停留所まで迎えに行く親も少なくない。

 一人暮らしの女性が最寄駅のそばのオートロック、監視カメラ付きのマンションを選ぶ傾向が強まるが、郊外より都心マンションの方がいいとなると、それはそれで新たな問題を生む。なにしろ未婚女性の数が多すぎる。近年では都心区では地域丸ごと単身化しつつある。しかもプライバシー保護、防犯優先だから匿名化が進行しつつある。近所付き合いはない。  なお密集市街地では道路に面した各住宅の門燈の光で道路は明るいが、塀が高く長い高級住宅地の歩道はニュータウン同様、夜暗く、監視カメラも機能しない。タクシー代を払えないなら、高級住宅地に住まない方がいい。これ本当。(つづく)

(2013年3月号掲載)
(高崎健康福祉大学教授 松本 恭治)