39.地価格差が広がる原因と格差拡大の意味 -都心の容積率を緩和すれば郊外はさらにたそがれる-

 図は東京から総武線で千葉方面の沿線都市の地価公示価格の1988年を100とした場合の2008年の指数は東京都心3区と50~70km帯では約4倍の開きが出た。商業地に至っては実に6倍に格差が拡大した。都心からの遠隔地では住宅地以上に商業地の値下がりが激しい。人口が急激に減少している訳ではないが、驚くのは、バブルで値上がりしたときはマスコミが一斉に取り上げたのに値下がり時には何も言わないことだ。

 住宅を新たに購入する人にとって値下がりは都合が良いが、既に居住している人にとってはまことに不都合だ。住宅地、商業地が値下がる理由は、新規の土地需要が減少しているといえば簡単だが、郊外住宅地は車社会の影響からまだ逃れられていないことにも起因する。遠隔地の都市の商店街は空洞化が進むが、これは最寄り駅と関係なく、幹線道路脇にスーパーなど大型店舗が普及した結果である。住宅が余っているのに大型の住宅地開発が成されるが既存の密集住宅地を嫌う住民は整然とした町並みの新興住宅地に住み替える。戸建の建売なら車1台は常識で2台設置も少なくない。車離れが言われて久しいが、これは東京、神奈川の交通利便な地域の話であって、茨城、栃木、群馬県などの周辺県では車は未だ生活必需品である。神奈川、東京が自動車保有率を減らしているのに比べて茨城、栃木、群馬では上がり続け、埼玉、千葉は停滞しているから、東京に近い埼玉、千葉は自動車離れが進むものの、遠い埼玉、千葉では車離れは進行しにくい。

 人口が増加すれば地価は上がるか維持するかを想定しがちだが、生産年齢人口で見たほうが住宅・土地需要との関係を説明しやすい。郊外遠隔地ほど、生産年齢人口は減少するが、鉄道を軸として発展した市部に隣接する周辺町村は軒並み減少傾向を示す。若年労働者が仕事を求めて県内の中核都市に移動してしまい、結果、郊外の小規模都市は住宅需要を喚起できないだけでなく、商圏内の人口が縮小するから売り上げ低下で土地価格が低下すると考えられる。生産年齢人口の減少は始まって間もないが、この程度で地価格差が開けば、人口が半減したら、郊外都市はひとたまりもない。

 ところで従業地別の従業者数では東京23区では激減し、郊外でやや増加している。であれば郊外の土地価格が上がっていいはずだが、そうならないのは、20~40km帯では派遣社員やパート雇用比率が高い。見掛けの従業者数が増えても、労働弱者が増えるだけでは、さして土地住宅需要は増えにくい。かくして大都市圏内の土地の価格格差は拡大したが、この意味は実に重い。土地は未だ経済の源泉で値上がりすれば借金の担保価値が大きくなる。売却すれば次の投資に大いに役立つ。土地の値下がりはマンションの中古価格とも連動する。マンションの場合は区分所有で土地の潜在的効用が制限されるから、土地価格の値下がり以上に下がる傾向が強い。老後保障としての持ち家取得が老後の足かせになる場合もある。売却しても残債が残るようでは転居できない。マンション居住者の永住意識が高まった原因は、昔のようにステップアップが利かなくなったことも影響していよう。(つづく)

(2011年3月号掲載)
(高崎健康福祉大学教授 松本 恭治)