ペット飼育全面禁止の規約改正を行ったが、ペットを飼っているBさんから規約の改正は無効であると主張された (2006年11月号掲載)

Q.

 私たちのマンションでは、犬や猫を飼っている人がいます。今までの規約にはペットの飼育については何も規定がありませんでした。今回の総会でペットについては全面的に禁止をする旨の規約の改正を行いましたが、今まで犬を飼っていたBさんから「自分がマンションに入居したときには規約にペットの飼育禁止条項はなかったから飼い始めた。今回の規約改正は私に不利益を及ぼすものであるから、私の承諾がない規約の改正は無効である」と主張しています。Bさんの言い分は正しいのでしょうか。

 

A.

 これまで何度かこのQ&Aで説明してきたことですが、区分所有法31条は「規約の設定、変更又は廃止は区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議によってする。この場合において規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」と規定しています。

 本件ではペットの飼育を禁止する規約の設定が、ペットを飼育していたBさんに「特別の影響」を及ぼすと言えるか、が問題となります。「特別の影響」については「規約の設定・変更等の必要性及び合理性とこれにより受ける当該区分所有者の不利益とを比較考量して、当該区分所有者が受忍すべき限度を超える不利益を受ける」場合をいうと解されます。

 この点、Bさんの飼っている犬が盲導犬の場合は動物の存在自体が、飼い主の日常生活・生存にとって不可欠な意味を有するので、その飼育を禁止することは飼い主の生活・生存自体を制約することになりますので、「特別の影響」を及ぼすことになると考えられます。

 しかし、それ以外の例えば愛玩動物としてのペットの飼育は飼い主の生活を豊かにする意味はあるとしても、飼い主の生活・生存に不可欠のものとまでは言えないと考えられます。また、何をペットとして愛玩するかは飼い主の主観により極めて多様であり、飼い主以外の入居者にとっては愛玩すべき対象とは言えないような動物もあること、犬、猫等の一般的と見られる動物であっても、そのしつけの程度は飼い主により千差万別であり、仮に飼い主のしつけが行き届いたとしても、動物である以上は、その行動、生態、習性などが他の入居者に対して不快感を招くなどの影響を及ぼすおそれがあること等の事情を考慮すれば、マンションにおいて許容しうるペットの範囲をあらかじめ規約に定めておくことは至難の業であり、ペットの飼育を全面的に禁止する規約の制定についてはその必要性も合理性も認められ特別の影響を及ぼすとは言えないと考えられます。現時点での裁判所の考え方も同様です。

 但し、最近はペットの飼育を認めるマンションも多くなってきました。ペットを単なる愛玩動物と考えるのではなく、家族の一員として考えるような人達も少なくありません。

 法律的には規約で全面的に禁止することが可能だとしても、ルールを定めて(ペットクラブを作ることも一案です)、ペットを飼育する人と飼育しない人の共存の途を目指すことを真剣に考える時期に来ているのかも知れません。

回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・石川貴康
(2006年11月号掲載)